バングラデシュ経済の現状と今後の注目点~ 世界第8位の人口を擁する南アジアの隠れた有望国 ~

2023/10/03 堀江 正人
調査レポート
海外マクロ経済
  • 南アジアのバングラデシュは、国連が認定する後発開発途上国(LDC)に分類される貧しい国であるが、世界第8位の人口(1.7億人)を有し、マクロ経済が堅調であることなどから、有望な新興国として評価されている。例えば、バングラデシュは、BRICSほどではないが大きな潜在性を秘めた新興国群である「ネクストイレブン」の一つに位置付けられている。
  • バングラデシュでは、近年、生活水準の向上や投資の拡大などが着実に進んでいる。所得水準の向上と人口の多さを考慮すれば、今後、外資企業にとって、バングラデシュの国内市場をターゲットとするビジネス・チャンスが増えることも期待できそうだ。
  • バングラデシュのインフレ率は、長期的に見れば、同じ南アジア地域のインドやパキスタンに比べて安定的に推移してきた。インフレ率は、2015年頃から6%前後で推移してきたが、2022年以降急上昇し、2023年5月には9.9%と2ケタ台直前に達した。中銀は2022年5月に政策金利を約2年ぶりに引き上げて5.0%とし、その後も追加利上げを実施し、2023年7月には6.5%まで引き上げた。
  • 通貨タカの対米ドル為替相場は、2003年5月の変動相場制移行後、緩やかな下落傾向を辿ってきたが、足元で急落している。タカ急落は、経常収支が赤字化したことや、当局が相場のタカ高への誘導をやめて実勢レートを反映した水準への移行を容認したことなどが影響したと見られる。
  • バングラデシュの経常収支は、2005年から2016年までは若干ながらも黒字で推移していた。この時期の収支構造を見ると、第二次所得収支(海外出稼ぎ労働者の本国送金)の大幅な黒字が、貿易収支の恒常的な赤字をオフセットして経常収支を黒字にするという構図になっていた。
  • バングラデシュ経済を支える牽引役の一つが縫製品輸出であり、輸出の8割を縫製品が占め、衣料品の世界輸出シェアでバングラデシュは中国に次ぐ2位である。バングラデシュの縫製品輸出産業台頭の理由は、人件費の安さと豊富な労働力が労働集約型産業である縫製業に適していたためである。また、世界の工場となった中国で人件費が上昇し中国以外の国々に生産拠点を求める「チャイナ・プラス・ワン」の動きが強まったことも、バングラデシュにおける縫製品輸出拡大への追い風になった。
  • 縫製品輸出と並んでバングラデシュ経済を支える二本柱のひとつと言えるのが、海外出稼ぎ労働者からの送金である。海外出稼ぎ労働者からの本国送金額において、バングラデシュは発展途上国の中で第7位にランクされており、海外出稼ぎ大国とも言える。バングラデシュの海外出稼ぎ労働者の主な渡航先は、同じイスラム圏で距離が比較的近い中東湾岸諸国である。
  • バングラデシュは人件費が非常に低廉であり、これが労働集約型生産拠点としての大きな強みとなっている。JETROデータに基づいてアジア主要都市のワーカー人件費を比較してみると、バングラデシュのダッカは最低レベルであり、ダッカより低いのは、ヤンゴンとコロンボだけである。
  • バングラデシュは、1990年代以降、生産年齢人口(15~64歳)比率が上昇する「人口ボーナス」期を迎えている。ただ、生産年齢人口比率は、2040年代後半以降、下落が進むと予想され、それまでに、投資誘致などを通じて労働集約型産業を拡大させ国民の雇用・所得底上げを図ることが課題となろう。

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