- 米国の2023会計年度(22年10月~23年9月)の財政赤字は、コロナ禍での一時的な歳出増が一服したにもかかわらず増加に転じた。赤字水準についても、コロナ前の2010年代はもちろん、コロナ前まで過去最大だったリーマン危機時の09年度を大幅に上回っている。
- 23年度の赤字増加は歳入の一時的な減少による。一方、財政赤字がコロナ前水準を大幅に上回っているのは、バイデン政権の歳出増によるところが大きい。コロナ前19年度から直近23年度までの歳出の変化をみると、メディケイド、年金費、純利払い費、所得保障関連費の順に増加幅が大きく、いずれも2,000~3,000億ドル程度歳出が増加した。このうち、年金費、純利払い費の増加は経済的要因にともなう歳出増加であるのに対し、メディケイド、所得保障関連費の増加は、所得分配の強化をめざした政治的要因による歳出増加である。
- 米国の財政は、さらなる赤字拡大を招きかねない2つの構造問題をはらむ。第一は、純利払い費の急増である。23年度は金利上昇の影響などで6,592億ドル(約99兆円)と空前の水準に達しており、財政悪化と利払い費増加の負のスパイラルに陥る懸念がある。第二は、景気変動にともなう歳入減、歳出増の影響などを除去した「構造的財政収支」の悪化である。「構造的財政収支」の悪化は、米国の財政赤字の拡大が今後も続くことを示唆している。
- 財政赤字の拡大により、米国債の発行額も急増した。23年の国債発行額は11月までですでに累計で20.77兆ドルと、年間合計ではコロナ禍の20年の20.95兆ドルを上回り過去最大となることが確実である。4年前と比べ実に1.7倍の規模まで国債が増発されており、円滑な市中消化が懸念され始めている。
- 長期金利の水準を「インフレ率」、「潜在成長率」、「財政を主としたリスクプレミアム」の3つの要因から考えると、23年は、インフレ率、潜在成長率がいずれも22年に比べて低下したので、本来なら10年物国債利回りが低下する環境にあった。しかし、財政悪化、国債増発によりリスクプレミアムが上昇(リスクプレミアムのマイナス寄与が急激に縮小)し、国債利回りの上昇をもたらす主因となった。
- 足元の長期金利は、FRBによる利下げの可能性が意識され始めたことで低下している。しかし、短期的には金利低下が見込まれても、中長期的な国債相場の潮流については、2010年代にみられた歴史的な超低金利局面には戻らないと考えるべきである。高齢化や所得格差の拡大は、歳出を拡大させる要因となるため、財政状況の悪化が持続的なものになりやすいからである。リスクプレミアムの上昇など米国債市場の環境変化が、日本の国債市場に及ぼす影響にも注意が必要であろう。
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