- 南米大陸でブラジルに次ぐ大国のアルゼンチンでは、2010年代以降、経済運営の迷走が続いた。野放図な財政運営によって財政赤字が拡大し、インフレ率が上昇したため、政府の経済運営への不信感が高まり、通貨ペソが急落した。急速なペソ安とインフレの加速がスパイラル的に進んで国民生活は窮迫し、昨年夏には、生活苦に喘ぐ市民による白昼の商店略奪が頻発するなど、社会情勢の混乱が深まった。
- 通貨ペソの下落に際し、当局は、為替管理を強化することでペソ安を防ごうとしたが、これによって、闇市場での米ドル交換が拡大し、また、ペソから貴金属や高級外車などの実物資産へのシフトが起こるなどして、かえってペソ安を加速させるという逆効果をもたらした。
- 社会・経済の混迷状態が続く中、2023年11月には、大統領選挙で、与党(左派ペロン党)の候補が敗れ、右派政党出身のハビエル・ミレイ氏が当選したが、同氏は中央銀行を廃止し米ドルを法定通貨にするなどと実行が疑問視される過激な政策を唱えており、アルゼンチン経済の先行き不透明感が増している。
- アルゼンチンは、19世紀後半から20世紀前半にかけて農産物輸出で巨額の外貨を獲得し、第1次世界大戦前には世界有数の富裕国となっていた。しかし、第2次世界大戦後に、主に下層労働者が熱狂的に支持するペロン大統領の結成した正義党(通称ペロン党)が一大勢力となり、ペロン党政権による労働者向けの人気取りの色彩が濃いポピュリズム的な政策が長期間続いたことが、経済悪化を招く原因となった。
- アルゼンチン経済の今後の課題は、ペロン党政権時代のポピュリズム的な経済運営の影響を払拭することである。それには、まず財政規律の回復が必要であり、また、為替規制の緩和、さらには、経済活動への政府の介入縮小が求められる。
- 今後、ミレイ政権が、財政・金融運営の正常化に成功すれば、アルゼンチン政府・企業の国際金融市場での資金調達がスムーズになり、各国のアルゼンチン向け貿易保険や輸出入金融も正常に機能するようになる。そうした状況になれば、アルゼンチンとの貿易・投資の拡大が見込まれる。しかし、経済改革の「痛み」に国民が耐えられなくなった場合には、再びポピュリズムの左翼政権が復活する恐れがあり、そうなると、アルゼンチン経済の健全化は遠のいてしまう。
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