- 2024年3月に日本銀行はマイナス金利政策を解除し、約17年ぶりの利上げを行った。日銀は2%の物価安定目標の達成が視野に入ってきたことを政策変更の理由に挙げており、いよいよデフレ脱却が現実味を帯びてきたと感じられる。一方、政府は日本経済がデフレではない状況にあるとしつつも、今が「数十年に一度の正念場」とし、デフレ脱却を宣言することに対して、慎重な姿勢を崩していない。
- 政府はデフレ脱却を「物価が持続的に下落する状況を脱し、再びそうした状況に戻る見込みがないこと」と定義し、その是非について物価の基調や背景を総合的に考慮して慎重に判断するとしている。デフレ脱却4指標(消費者物価指数、GDPデフレーター、需給ギャップ、ユニット・レーバー・コスト)やデフレリスクを定量的に評価したデフレリスク指数からは、すでに「物価が持続的に下落する状況」から脱しているだけでなく、「再びそうした状況に戻る」リスクも低下していることが読み取れる。
- もっとも、足元のデフレリスクの低下は、コロナ禍でデフレリスクが高まった反動による面もある。このところ内外景気に減速感が見られることもあり、デフレに後戻りするリスクが小さいとのデータの蓄積をもう少し待ってもいいのではないか。そう考えれば、日本経済がデフレ脱却に向けた正念場にあるとの政府の慎重な姿勢も腑に落ちる。
- 仮にデフレ脱却宣言が出れば、日本のマクロ経済政策は大きな転換を迫られることになる。積極的な財政出動が不要となるだけでなく、金融緩和についても、政府と日銀の共同声明は役目を果たしたことになり、日銀はより柔軟に金融政策を運営することが可能になると考えられる。一段の金利上昇につながれば政府の利払い費が増えるなど、政治的にも都合の悪い結果を招くリスクがある。その意味で、デフレ脱却宣言には、データの蓄積だけでなく、宣言後に種々の政策の正常化を進めるという政府の強い意志と覚悟も必要になる。それらの準備が整うまで、デフレ脱却宣言の発出にはどうしても慎重にならざるをえないだろう。
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