GDPと所得の乖離が続くアイルランド経済~外資による輸出でGDPは高成長も、所得の増加につながらない状況が続く~

2024/04/22 土田 陽介
調査レポート
海外マクロ経済
金融
  • コロナショックにもかかわらず、アイルランドの国内総生産(GDP)は高成長を記録した。とりわけ医薬品とデジタルサービスの輸出がGDPの成長をけん引したが、それはアイルランドがこれまで諸外国から受け入れてきた直接投資(FDI)の存在なしには実現しえなかったものである。
  • 人口が500万人と少ないアイルランドは、早いうちから知識集約型の製造業である製薬業に注目し、世界の大手製薬会社の誘致に努めたため、コロナショック以前の段階でヨーロッパにおける製薬業の集積地としての性格を強めていた。ゆえにアイルランドは、コロナショックに伴いヨーロッパで急増した医薬品の需要に対応でき、輸出を増やすことができた。
  • またアイルランドは、税制優遇や資金調達支援、プラットフォームの提供などを通じて、IT(情報通信)産業の育成にも取り組んできた。これを好感した米系のビックテック企業も、アイルランドに研究開発拠点を設けるに至った。そのため、コロナショック時のロックダウンで急増したコンピューターサービス需要にもアイルランドは対応でき、コンピューターサービス輸出を伸ばすことに成功した。
  • 近年、米国とEUの双方で保護主義の機運が高まっているが、特にアイルランドが強みを持つコンピューターサービスに関しては、プライバシーの問題もあり、EUが米系ビックテック企業に対する態度を硬化させている。こうした懸念材料があるものの、米国との経済的な関係が断たれることがない限り、アイルランドのGDPは米国とともに順調に成長していくと予想される。
  • 他方で、国民の所得の増加に関しては、GDPの成長テンポを下回る状況が続くと考えられる。低税率でFDIを引き寄せる以上、税収の増え方もGDPに比べると限定的であるため、所得の再分配政策を強化するのも難しいだろう。
  • アイルランドの例は、単にFDIを受け入れるだけでは国民の所得が増加しないことをよく示している。日本がFDIに経済成長のけん引役を委ねるなら、何よりまず、日本は広範囲にわたる構造改革(労働市場改革や行財政改革など)を進めて、ビジネスフレンドリーな環境を整備する必要がある。

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