中国製EVに追加関税を課すEU~本格的な通商摩擦は回避も、EUのEVシフトは一段と停滞する恐れ~

2024/07/05 土田 陽介
調査レポート
海外マクロ経済
  • EUの執行部局である欧州委員会は2023年10月、中国製EVに対する反補助金調査を開始した。その暫定結果に基づき、欧州委員会は2024年7月5日より、中国製EVに対してメーカーごとに17.4%から37.6%の追加関税を課すことになった。欧州委員会による反補助金調査は11月上旬まで続く一方で、この間にEUと中国の間で集中的な協議が続けられる。
  • EUが中国製EVに対して追加関税を実施することによる懸念事項としては、第一に、EU市場でEVの価格が上昇し、普及が停滞する恐れがある。第二に、中国による対抗措置が発動されることがある。第三に、EU内の結束が揺らぐことがある。とはいえ、中国製EVに対する追加関税をきっかけに、EUと中国が本格的な通商摩擦に突入する事態は回避されよう。中国が米国との間でも貿易紛争を抱えていることがその大きな理由である。
  • そもそもEUは、自らの市場でEVシフトを進めるとともに、それを世界に拡大させることを通じてグローバルな影響力を行使しようと試みた。これを「ブリュッセル効果」と呼ぶが、結局のところEUは、EVシフトを通じて内外における保護主義の流れを強めてしまった印象が否めない。これはEVシフトのみならず、再エネシフトなど脱炭素化政策全般に共通する傾向だが、特にEVシフトは、ブリュッセル効果がネガティブな意味でグローバルに波及してしまった典型だと評価せざるをえない。
  • 中国製EVへの対応に見て取れるように、EUはあくまで域内で生産されたEVを優遇する姿勢をとっている。そのため、日本の自動車メーカーがEUのEV市場でシェアを獲得するためには、現地生産比率を高めていく必要がある。しかしながら、すでにEVの需要は「踊り場」に差し掛かっており、先行きも順調に拡大するかは不透明である。ゆえに日本の自動車メーカーは、EU域内でのEVの現地生産比率を高めるのではなく、HVに代表される得意分野に活路を見出せるかもしれない。

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