ベトナムの輸出は2023年後半から回復に転じた。最大の輸出先である米国向けが全体の動向を大きく左右しており、2023年前半の低調と2023年後半からの回復は米国向け輸出の動きと連動している。
しかし、一部の品目の動向はこうした循環的な動きとは異なる。米国の輸入統計を用いた分析によると、米国のベトナムからのノートPC・タブレットの輸入額は2023年年初から急速に拡大し、足元でも堅調な増加が続いている。
背景には、ベトナムにおける生産能力の拡大がある。近年、ベトナムでは世界の主要なノートPC・タブレットメーカーの工場設置が相次いでおり、特に米アップル社の生産を受託するBYD(中国)と鴻海精密工業(台湾)の生産が本格化した2023年以降、急速に輸出が増加した。中国からベトナムへの生産移管とみられるが、ノートPC・タブレットは米国の制裁関税の対象ではないことから、企業が生産拠点を中国一国に設置していること自体がリスクであるという考えのもと、生産拠点の分散を決めたと考えられる。
さらに、2022年年初の中国ロックダウン政策による供給網の混乱は、中国一国に依存する生産体制のリスクを浮き彫りにした。中国からベトナムへの生産移管は今後も続く見込みである。
また、米国の輸入統計によれば、パソコンやサーバといったコンピュータに搭載される電子部品(コンピュータ部品)も、米中対立の影響をうけてベトナムからの輸入が拡大した。2018年に対中制裁関税がかけられた直後に中国からの輸入が減少し、ベトナムでの生産拠点の新設・拡大につながったとみられる。
2018年に米国が対中制裁関税の実施を決定したことを契機に、ベトナムは関税回避のための生産移管の恩恵を受けてきた。制裁関税の対象外の品目でも生産移管の動きが起きた点からは、米国の制裁関税が実際の課税範囲以上に中国の生産・輸出を縮小させる効果を生んだといえる。
世界的に主要なメーカーの生産拠点設置は今後も続くとみられ、ノートPC・タブレットやコンピュータ部品はベトナムの輸出のけん引役となるとみられる。しかし、近年はインドなどへの生産移管もみられ、生産移管先としてベトナムが選ばれ続けるかが今後の輸出動向を左右するだろう。
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