- 世界の中でも顕著な高成長を遂げ「東アジアの奇跡」として注目された国々の一つであったタイの経済が、近年、失速気味であり、2010年代以降、近隣諸国よりも低い成長率で推移している。
- タイの年次経済成長率を需要項目別に寄与度分解すると、輸出の寄与度が2000年代には大きかったが、2010年代以降は小さくなっており、最近の成長率低下の大きな原因が、輸出の伸び悩みであることが示されている。一方で、個人消費と投資(固定資本形成)についても、2010年代に入ってから低調に推移しており、これも経済成長率低下の要因として見逃せない。
- タイの個人消費低調の背景のひとつに、家計債務残高の大きさが挙げられよう。これは、2012年に新車購入インセンティブ政策が実施された際に、耐久消費財購入等のため家計が借り入れを増やした後遺症と見られる。また、投資が低調な点については、基幹産業である自動車産業の設備過剰問題が影響していると考えられる。さらに、タイの輸出全体が2010年代以降、停滞傾向となった背景については、タイの輸出をリードしてきたHDD(ハードディスクドライブ)が頭打ちから減少に転じたことが影響したと見られる。
- タイ経済は、近年失速気味ではあるが、経済構造の面では健全さを維持している。物価は安定しており、財政規律は概ね維持されており、失業率は非常に低く、また、経常収支は黒字基調である。
- タイは、世界有数の日系企業集積地であり、日本企業から見た投資先としてのタイの最大の魅力は、インフラ面を中心とした投資環境の良さである。ただ、タイの人気度は周辺諸国に比べて相対的に低下しており、労働者の質やコストといった面では、タイよりベトナムの方が日系企業から高く評価されている。
- バンコク日本人商工会の会員企業数を業種別に見ると、2000年代までは、製造業が非製造業よりも多かったが、2010年代以降は、非製造業が製造業を大きく上回っており、この点は、タイの経済発展・所得水準上昇にともなって、事業展開先としてのタイの位置付けが「生産拠点」だけでなく「市場」という視点からも重要になっていることを示すものと言えよう。
- タイは、人件費ではアジア主要国の中でも高い部類となり、人件費の安さという点では、アジア域内で優位性があるとは言えなくなった。また、人口ボーナス時期が既に終焉し人手不足が続くと見られるため、労働集約型産業ではベトナムなど周辺諸国に対抗できなくなっている。今後、タイは、産業を高度化しないと、経済が低迷し「中進国の罠」に陥るリスクがある。
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