○2016年の米国景気は、世界経済の減速が続く中で年初は弱さが見られたが、夏場には雇用情勢の改善を背景に個人消費が底堅さを取り戻し再加速した。先行き不透明感が強い中で迎えた大統領選挙では、大方の事前予想に反してトランプ氏が勝利し、いわゆる“トランプ・ショック”を引き起こした。同氏の掲げる政策が経済成長を加速させるとの期待から、年末にかけて株高・金利高・ドル高が進む中、12月にはFRBが追加利上げに踏み切った。
○中長期的な流れを見ると、潜在成長率は2000年代に大きく低下した後、2010年代に入ってからはやや持ち直しているが、足元では概ね1%台半ばにとどまっている。潜在成長率が大きく低下した主因は労働投入量の伸びが縮小したためであるが、資本投入量や生産性も伸び悩んでいる。そもそも潜在成長率が高まらない状態にある中で、リーマンショックが米国経済に追い討ちを掛けた。しかし、現在では労働市場が完全雇用に近づき、先進国で唯一、金融政策の出口戦略に着手する等、経済はポスト・リーマンショックの時代から脱却した。足元では、期待成長率が高まることで、消費や投資を促し潜在成長率の向上に繋がっていく兆しが出始めている。
○トランプ大統領の掲げる減税やインフラ投資の拡大といった政策は、短期的には景気を押し上げる効果があると考えられる。一方、保護主義が極端に強まればコスト高を通じてインフレが進み、実質所得を低下させる可能性がある。また、中長期的には財政赤字の拡大によって金利が急上昇しかねない。景気刺激の軸足が金融政策から財政政策へと移りつつあるが、トランプ大統領の掲げる規制緩和等の政策は、本来、生産性の向上を通じて中長期的な成長力を高めるための手段である。こうした成長戦略が成功するかどうかのカギの一つが製造業の復活にあると考えられるが、国内雇用の拡大だけでは生産性は高まらず不十分といえる。一方、エネルギー分野の規制緩和は、コストの低下を通じた生産性の向上により中長期的な成長に繋がる期待がある。
○以上を踏まえた上で先行きを見通すと、今後は経済の拡大ペースが緩やかに加速していくと見込まれる。実質GDP成長率は、2017年に2.3%となった後、2018年は2.6%と伸び率の拡大が続き、3年ぶりに2%台後半の成長を達成すると予測する。新政権の経済政策の効果が表われるのは早くても2017年後半とみられ、減税やインフラ投資促進の影響が本格化するのは2018年になるだろう。もっとも、政策が直接的に実体経済を押上げ成長を加速させるというよりも、昨夏以降、世界景気の減速が一服する中で、そもそも米国経済は自律的に景気が加速する過程に転じているものと考えられる。FRBによる利上げは、2017、2018年とも年2回を見込んでいる。
○想定されるリスクは、①想定以上に景気が過熱しインフレが加速し、金利が急上昇すること、②中国を中心とした新興国経済の悪化により世界景気が再び低迷すること、③トランプ大統領の頑なな姿勢により議会との調整が進まず政策実行が遅れること、等が挙げられ、いずれも成長率を低下させる要因となるだろう。
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