ASEAN-5の経済動向(2020年7~9月期)~コロナ・ショックからの回復局面に入ったASEAN-5の経済~

2020/12/03 堀江 正人
アジア景気概況
海外マクロ経済

〇 ASEAN-5(タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア、ベトナム)の経済は、2020年3月から本格化したコロナ・ショックによって大打撃を受け、2020年4~6月期の経済成長率は大きく落ち込んだ。しかし、景気は4~6月期をボトムに回復に向かいつつあり、7~9月期の経済成長率は、4~6月期よりも改善した。

〇 ASEAN-5のうち、7~9月期の前年同期比経済成長率がプラスだったのはベトナムだけである。タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシアの経済成長率は4~6月期に続いてマイナスであり、SNAベースの経済活動規模がコロナ・ショック以前の水準に戻るまでには至っていない。しかし、各国の消費、生産、輸出などの月次データを見ると、指標の悪化傾向が4~5月頃にボトムアウトし、その後はずっと改善し続けていることから、景気回復の足取りは確かなものとなっている。

〇 コロナウィルス感染状況を見ると、ASEAN-5の中で二極化しており、タイ、ベトナムは、感染拡大を初期段階で封じ込めたが、フィリピンとインドネシアでは感染者数が大きく増加してしまい、特に、インドネシアは感染者数の増加傾向が弱まる兆しが見えないことが懸念される。

〇 タイの2020年7~9月期の経済成長率は、前年同期比▲4%となり、4~6月期(▲12.1%)よりも大幅に改善した。個人消費は、もう少しでプラス成長というところまで回復しており、投資も、公共投資などの効果で、持ち直しつつある。一方、輸出は、依然として大幅なマイナス成長である。コロナ禍に伴う外国人入国禁止で観光収入が途絶したためサービス輸出が前年同期比7割も減少したことが響いたと見られる。

〇 マレーシアの2020年7~9月期の経済成長率は前年同期比▲3%となり、4~6月期(▲17.1%)よりも大幅に改善した。コロナ禍対策として実施された移動制限令が緩和されたことで経済活動が正常化に向かい、また、財政出動や低金利などの政策支援にも後押しされて、景気回復の動きが進んでいることが確認された。

〇 フィリピンの2020年7~9月期の経済成長率は前年同期比▲5%と、4~6月期(▲16.5%)よりも改善し、景気が4~6月期に底を打って回復傾向にあることが示された。ただし、成長率は、依然として2桁台の大きなマイナスで、個人消費、投資(固定資本形成)、輸出が軒並みマイナスという厳しい状況であり、V字型回復には程遠いことも明らかとなった。

〇 インドネシアの2020年7~9月期の経済成長率は前年同期比▲5%と、4~6月期(▲5.3%)よりも改善した。しかし、コロナウィルス感染拡大の動きが未だに沈静化していないこともあって、景気回復のテンポは当初の期待ほど加速していない。依然として、コロナ・ショックがインドネシア経済への重しとなっている状況が続いている。

〇 ベトナムの2020年7~9月期の経済成長率は前年同期比6%と、4~6月期(0.4%)よりも加速した。経済成長率が4~6月期にプラスに戻った中国でさえ、1~3月期に大幅なマイナス成長に陥っていることを考慮すれば、コロナ禍の中でも2020年に入ってから3四半期連続でプラス成長を維持しているベトナム経済は、その底堅さが近隣諸国に比べて際立っている。

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