インドの経済動向(2021年7~9月期)~デルタ株の影響は沈静化したが、新たにオミクロン株発生で警戒感高まる~

2021/12/16 堀江 正人
アジア景気概況
海外マクロ経済
  • インドの2021年7~9月期(2021年度第2四半期)の経済成長率は、前年同期比8.4%となり、2021年4~6月期(20.1%)よりも大幅に減速した。ただし、前期については、コロナショックで大幅に落ち込んだ前年同期と比較されて、見かけ上、成長率が著しく高まったというテクニカルな要因を考慮する必要がある。今期の成長を支えたのは、個人消費と投資という内需の二本柱であった。
  • インドにおけるコロナウィルス新規感染者数は、2020年6月に第一波の増加が発生したが、同年9月をピークに減少、その後、横這い状態となった。しかし、2021年3月から5月にかけて、変異種デルタ株による爆発的な第二波の感染増加が発生した。この感染拡大による景気への打撃が危惧されたが、感染者数は、その後、急速に減少した。しかし、2021年11月には、南アフリカで新たな変異種オミクロン株の発生が判明し、インドでもオミクロン株による感染拡大への警戒感が高まっている。
  • 昨年春のコロナ禍発生を受け、中銀は、昨年3月と5月に利下げを実施し景気の下支えを図ったが、インフレ率が上昇しインフレターゲットの上限である6%を超える状態が続いた。しかし、その後、インフレ率は低下し、足元では4%台まで下がっている。中銀は、当面、金融緩和持続を狙うと見られる。
  • 乗用車の月間販売台数は、コロナショックが勃発した昨年4月に3万台まで激減したが、昨年夏以降持ち直し、昨年9月には31万台まで回復した。その後、今年5月には、コロナウィルスの第二波感染拡大の影響で8.8万台へ急減したが、6月以降は20万台を超える水準まで急回復した。しかし、今年9月は、半導体不足や原材料価格高騰を受けてメーカー側が生産体制を一時的に縮小させた影響で、16万台へと減少した。
  • 工業生産指数伸び率は、インド全土で実施されたロックダウンのため、昨年春には大幅な落ち込みとなったが、ロックダウン終了後に急回復した。今年4月には、昨年春の落ち込みからの戻りというテクニカルな要因に影響されて、著しく高い伸び率となった。
  • インド経済の抱える深刻な問題のひとつが、慢性的な財政赤字である。大規模な財政赤字の慢性化は、インフレ圧力や経常赤字拡大圧力を高め、インド経済の大きなボトルネックになってきた。その財政赤字が、コロナショックの影響で拡大しており、インドの今後の経済成長を制約しかねない状況となっている。
  • インド経済が、慢性的な財政赤字・経常赤字という「基礎疾患」を抱えているにも拘わらず、ルピーの為替相場は他の主要新興国よりも安定している。巨大市場であるインドは、成長ポテンシャルに魅かれて世界中から流入した資本の額が経常赤字をオフセットするパターンが定着、これによってもたらされる国際収支面でのソルベンシー・リスクの低さを背景に、ルピーの相場が安定していると言えるだろう。
  • インドの株価は、2020年春のコロナショック勃発時に大きく下落したが、その後、ロシアやブラジルを上回る勢いで急速に回復し、過去最高値を更新しながら上昇した。これは、インドの今後の経済成長に対する投資家の期待感の高さを反映したものと言えよう。ポスト・コロナ時代も、新興国株式市場の中で、インドは、成長市場として大きな存在感を示し続けそうである。ただ、足元では変異種オミクロン株発生のニュースに影響されて下落している。

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