ASEAN-5の経済動向(2021年10~12月期)~「デルタ・ショック」から回復、しかし、新変異種オミクロン株の影響に懸念~
2022/03/10 堀江 正人
アジア景気概況
海外マクロ経済
- ASEAN-5(タイ、マレーシア、フィリピン、インドネシア、ベトナム)の景気は、コロナ禍発生直後の2020年4~6月期に大きく落ち込み、その後、回復したが、2021年7~9月期には、コロナウィルス変異種デルタ株による感染拡大という「デルタ・ショック」に見舞われ、経済成長率が全般的に鈍化した。しかし、2021年10~12月期には再び成長率が加速した。
- ASEAN-5のコロナウィルス感染状況は、今年2月以降、新たな変異種オミクロン株の影響により、タイ、マレーシア、ベトナムで新規感染者数が増加傾向にある。特に、ベトナムでは、3月上旬に1日当たり新規感染者数が20万人を超え、ASEAN域内最多となった。ベトナムは、ワクチン接種完了率が上昇したにもかかわらず、新規感染者数が急増していることが懸念される。
- タイの2021年10~12月期の経済成長率は、前年同期比1.9%となった。7~9月期には、デルタ・ショックでマイナス成長(▲0.2%)に転落したが、再びプラス成長に戻った。個人消費は若干のプラス成長にとどまり投資は若干のマイナス成長になるなど、内需は依然として本調子ではないが、輸出の伸びが加速したことで、今期の経済成長率が押し上げられた。
- マレーシアの2021年10~12月期の経済成長率は3.6%と、7~9月期のマイナス成長(▲4.5%)からプラス成長に戻った。マレーシアでは、コロナウィルス変異種デルタ株の感染拡大により6月にロックダウン実施に追い込まれ、7月以降も出勤制限などの措置が続いた影響で、7~9月期は景気回復の動きが頓挫してしまった。しかし、10~12月期は、制限措置が緩和されたことで経済活動が回復した。
- フィリピンの2021年10~12月期の経済成長率は前年同期比7.7%と、7~9月期(6.9%)よりも若干加速した。2021年9月中旬以降、コロナウィルス新規感染者数は急速に減少しており、外出・移動制限が緩和されたため、10~12月期の景気も回復傾向を維持できたものと見られる。需要項目別に見ると、投資(固定資本形成)は鈍化したものの、景気拡大の牽引役である個人消費が堅調に推移した。個人消費の拡大については、コロナウィルス感染の鎮静化を背景に、娯楽や飲食などを中心に、いわゆる「リベンジ消費」が盛り上がったことに支えられたと見られる。
- インドネシアの2021年10~12月期の経済成長率は前年同期比5.0%と、7~9月期(3.5%)よりも加速した。2021年7月中旬以降、コロナウィルス感染者数が急速に減少し行動規制が緩和されたため、10~12月期も引き続き景気が拡大した。経済成長率の需要項目別寄与度を見ると、輸出が好調を持続したことと、行動制限緩和の影響で個人消費が回復したことが、景気押し上げ要因となった。
- ベトナムの2021年10~12月期の経済成長率は前年同期比5.2%となり、7~9月期のマイナス成長(▲6.0%)からプラス成長に復帰した。2021年4月以降、コロナウィルス変異種デルタ株による感染が急拡大し、7月からは厳格な社会隔離措置が実施され、経済活動が大幅に落ち込んだ影響で、7~9月期はマイナス成長となってしまった。しかし、9月以降は、社会隔離措置が緩和されたため、10~12月期の成長率は持ち直した。ただ、今年2月以降、オミクロン株によるコロナウィルス感染が急激に拡大しており、今年1~3月期は、その影響で景気失速の可能性がある。
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