インドの経済動向(2023年1~3月期)~成長率は前期よりも加速、インフレ鎮静化で利上げ打ち止めの可能性~
2023/06/14 堀江 正人
アジア景気概況
海外マクロ経済
変化を捉える【経済】
- インドの2023年1~3月期(2022年度第4四半期)の経済成長率は、前年同期比6.1%と、2022年10~12月期(同4.5%)よりも加速し、予想外の堅調さが示された。個人消費は底堅く推移しており、今期は、特に、都市住民の所得増加が高額商品の販売増加につながったことなどで、前期よりも伸びがやや加速した。また、投資(固定資本形成)についても、今期は苦戦が予想されていたが、前期より伸びが加速しており、これが経済成長率加速に大きく寄与する形となった。
- 中銀は、2022年1月以降のインフレ率急上昇を受け、2022年5月と6月に利上げを実施し、その後、8月と9月の金融政策決定会合でも、インフレ率がインフレターゲットの上限(6%)を超える状況の長期化を警戒して利上げを決め、さらに12月の金融政策決定会合でも、利上げを実施した。2023年に入ると、2月に利上げを実施したが、6月の金融政策決定会合では、4月のインフレ率が17ヵ月ぶりに4%台まで低下したことなどを勘案して金利を据え置いており、利上げが打ち止めとなる可能性が見えてきた。
- 乗用車の月間販売台数は、コロナショック発生直後に激減したが、2020年夏以降持ち直した。2021年5月には、コロナウィルス第2波感染拡大の影響で急減したが、同年6月以降は急回復した。同年9月は、半導体不足や原材料価格高騰による生産体制縮小もあって減少したが、その後回復した。販売台数は、2022年4月に若干減少した後、盛り返し、2023年4月には、33万台と、7ヵ月ぶりに30万台を超えた。中銀の利上げモード終焉の兆しが見られることから、今後の販売増加に期待が持てる状況となってきた。
- インドのマクロ経済における大きな問題のひとつが、慢性的な経常赤字である。コロナショックによる輸入減で貿易赤字が減ったため、経常収支は2020年に黒字化した。しかし、2021年は、景気回復による輸入増のため経常収支は再び赤字化し、2022年は、コモディティ価格上昇で貿易赤字が増加したため経常赤字はさらに拡大した。インドは、財(モノ)の輸出は振るわないが、サービスの輸出は好調であり特に、ITをベースとする各種サービスのアウトソーシング受注であるIT-BPM(Business Process Management)輸出が、インドの貿易赤字をある程度オフセットするのに重要な役割を果たしている。
- インド通貨ルピーの対米ドル為替相場は、米FRBの利上げや、コモディティ価格上昇などを背景に、足元では史上最安値レベルで推移している。ただ、インド経済が、慢性的な財政赤字・経常赤字という問題を抱えているにも拘わらず、ルピーの為替相場は他の主要新興国よりも安定している。巨大市場インドの成長ポテンシャルに魅かれて海外から流入した資本額が経常赤字をオフセットしているため、国際収支面でのソルベンシー・リスクが低く、これを背景に、為替相場が安定していると言えるだろう。
- インドの株価は、2020年春のコロナショック発生時に大きく下落したが、その後、ロシアやブラジルを上回る勢いで急速に回復し、過去最高値を更新しながら上昇してきた。これは、インドの今後の経済成長に対する投資家の期待感の高さを反映している。今後も、経済成長ポテンシャルの大きさを背景に、新興国株式市場をインド株がリードすると見込まれる。ただし、コモディティ価格高騰による企業収益悪化や、インフレ率上昇による利上げ、といった要因の沈静化が今後も続くことが前提である。
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