米中「第一段階の合意」で中国は、米国からの財の輸入だけでなく、サービスの輸入についても増加させることを約束した。2020年、2021年の2年間で2017年比、財・サービスあわせて計2,000億ドル(約22兆円)増加させるうち、約2割にあたる379億ドルはサービスでの増加を見込んでいる。
その米国の対中サービス輸出額の構成をみると(図表1)、2018年には旅行が30%、教育関連(education related)が26%と、両者で全体の半分以上を占めている。つまり、中国からの旅行者・出張者による米国内での“インバウンド消費”と、中国からの留学生による授業料や生活費の支出が、米国の対中サービス輸出の大きな柱となっているのだ。国際収支統計ではこの両者をあわせて「旅行収支の受取」となるが、米国にとっては、中国からの海外旅行者を惹きつけることだけでなく、大量の留学生を受け入れることも、重要な輸出振興策だといえる。ちなみに、米中合意では中国の金融サービス市場の開放や知的財産権の保護も盛り込まれたが、サービス輸出における金融の比率は7%に過ぎず、特許料やコンテンツ使用料など知的財産も15%程度で、いずれも教育関連の規模には及ばない。
ただ、旅行の輸出額は2016年をピークに17年、18年と減少傾向にある。実際、訪米中国人観光客の人数は減少しており、この背景には中国経済の減速と米中摩擦の影響があるとみられる。また、留学生の支出である教育関連も、2018年には前年比7%程度増加しているが、その伸び率は年々鈍化してきている。米国国際教育研究所によれば、2018年度に全米の中国人留学生は約37万人にのぼり、留学生全体の実に3分の1を占めている(日本人留学生は1.8万人)。ただこちらも、近年その増え方が大幅に鈍化し、足もとではほぼ頭打ちになっている(図表2)。やはり米中摩擦が背景にあると考えられるが、特に、安全保障や覇権争いの観点から米国自身がビザ発給に慎重な姿勢を示していることも影響していよう。
このように、中国人旅行客と並んで中国人留学生も、米国がサービス輸出を拡大していく上での重要なカギを握っているが、足もとはむしろ気がかりな状況である。さらに、留学という「知の交流」の停滞は、将来の技術革新や人脈形成の芽を摘みかねない点で、米中双方に、より深刻な影響をもたらすものと懸念される。
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