今月のグラフ(2020年5月)企業の資金繰り支援と「その後」への対応

2020/05/07 中塚 伸幸
今月のグラフ
国内マクロ経済

新型コロナウイルスによる社会・経済活動の自粛がわが国企業に甚大な影響を与えている。政府の緊急事態宣言は当初の5月6日期限から5月末までに延長された。すでに雇用調整助成金の拡充や持続化給付金などの対策を盛り込んだ補正予算が成立しているが、法人企業統計のデータもふまえつつ、特に中小企業について、求められる対応を整理したい。

第一に、いま必要なことは、倒産を回避するための迅速な資金繰り支援である。活動自粛に伴い多くの企業が苦境にあるが、なかでも外食、宿泊、小売、運輸などの業種は売上急減に見舞われている。バッファーとしての手元資金(現預金と短期有価証券の合計)の水準をみると、大企業では月商の1.6ヵ月分、中小企業では同2.5ヵ月分となっている(図表1)。大企業のほうが少ないのは銀行借入枠を保有するといった事情もあろう。統計が示すのは、平均的な中小企業は売上ゼロが2ヵ月半続けば資金ショートするということである。3月以降の経済活動の急減速からすでに2ヵ月以上が経過しており、支援策の早期の実行が求められる。

第二に、まずは何より倒産回避の緊急措置が大前提ではあるが、それとともに次のステップとして、コロナ後あるいはコロナと共存していくための、新たな対応も検討すべきであろう。今回の危機を、個々の企業における事業の再構築、そしてわが国の産業構造の変革につなげてゆく契機にできないだろうか。

ちなみに「企業は内部留保を貯め込み寝かせている」との批判があった。実態は、バランスシート右側の「負債・資本」側において、内部留保(=利益剰余金)を含む自己資本が増加する一方、借入金が減少し、財務体質が改善したというのが正しい認識であろう。ただ、バランスシート左側の「資産」側の変化をみると(図表2)、総資産対比でみた手元資金は、大企業ではわずかな上昇にとどまるが、中小企業ではもともと水準が高いところにさらに20%超まで上昇している。このことは、結果的に、今回の危機における一定の耐性にはつながった。ただ、現預金という、企業活動の成果を生まない資産のウエイトが高まっていたことも事実であり、やや「守り」に傾斜していた面もあったかもしれない。

現下の危機を生き延びることが先決であるのは言うまでもない。しかし、その後、世界は元の姿に戻るわけではないだろう。「新しい生活様式」を前提とした、従来とは違う事業活動が求められる。これを機に廃業して事業転換を図るケースや、デジタル化の取り込みなど新たなビジネス展開を目指す動きも出てくるであろう。むしろそうした動きを促進することが求められる。まずは止血が急がれるが、その後を見据えた企業の対応と、それに向けた公的な支援も重要であろう。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。