コロナ危機への対応として、わが国では20年度第一次補正予算による事業規模117兆円の経済対策が打ち出され、同じく事業規模117兆円の第二次補正予算もまもなく成立する。両者の合計額234兆円には納税猶予や金融機関による融資額なども含まれるが、「真水」と呼ばれる財政支出も計約60兆円に達する。これら緊急経済対策は、給付金対応の遅れなどスピード感にやや問題はあったが、有事の止血策として思い切った対応がなされたと評価できる部分は大きいと思われる。
補正予算によって、当然ながら財政状況は悪化する。しかし今はそのことを心配する時ではない。感染拡大を抑えるために国全体で様々な行動の抑制に取り組んだわけであり、その甚大なコストは財政で負担して、社会・経済全体を支える必要がある。それは「災害」への対応であると同時に、いま失業と倒産をできる限り抑えることが将来の回復を容易にし、長い目でみればそのほうが財政にとって結果的にプラスになる面もある。海外においてもこの点は同様である(図表1)。健全財政志向の強かったドイツを含め、各国とも大胆な財政支援を発動している。米国も第二次世界大戦時以来の巨額赤字となるが、元来小さな政府を志向する与党共和党内でも、異を唱える声は小さい。
非常時であることと併せて、足もとの状況が財政赤字を容認しやすいこともある。まずなにより金利水準が低く利払いによる膨張が限られるため、債務残高の増加は抑制される(図表2)。かつ、今年度国債発行が60兆円増額されても、需給バランス悪化で金利が上昇する可能性は低い。直接ではないにせよ、実質的に日銀が国債を購入してくれることが背景にある。また、インフレが生じ、その抑制のために金利が上昇することも考えにくい。需給ギャップがマイナスである状況は当面続く。医療用品など一部で供給制約によるインフレは起こり得ても、経済全体にインフレ圧力がかかることは想定しにくく、この面からも金利上昇の心配は小さいだろう。
しかし、財政規律を放棄してしまってよいわけではない。財政赤字は将来からの前借りの側面があり、ツケを次世代に押しつけてはならない。経済情勢が落ち着けば、収支改善に向けた取り組みは必要だ。東日本大震災の際も、その後に復興増税が実施された。最適な負担のあり方について議論は必要だが、いずれはそうした改善の取り組みがなされるという共通認識のもとで、足もとの財政赤字は許容されている。万が一その認識が揺らぐことがあれば、すなわち財政への信認が失われるということであり、円が暴落するリスクが高まる。今は危機に全力で対応すべきであるが、先々必要になることも忘れてしまうわけにはいかない。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)
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