今般のコロナショックは、リーマン危機時との対比で説明されることが多い。リーマン危機が金融バブル崩壊に端を発した経済収縮であったのに対し、コロナ禍は感染防止のための意図的行動制限に起因する景気悪化であるなど、いくつかの相違点があるが、ひとつ言えることは、リーマン危機後には中国が巨額投資によって世界経済回復の牽引役を果たしたが、今回は中国にそこまでの力は期待できない、ということだ。
中国は新型コロナウイルスの発生源とされ、感染のピーク及び収束が世界の中で最も早かった。2月に感染ピークを迎え、収束後は他国に先駆けて経済活動を本格的に再開した。また、今のところは大きな感染第二波もみられない。この結果、景気は回復基調にあり、各種指標も改善を示している。特に生産や投資など企業部門の持ち直しが明確になっている。背景には政府による景気刺激策もある。工業生産は2月には前年比マイナス13.5%であったが、5月には自動車、鉄鋼などが好調で前年比+4.4%と、昨年並みの伸び率まで回復している(図表1)。また、固定資産投資は全体では依然前年比マイナスではあるものの、不動産投資は前年と同水準まで戻ってきている。
一方、消費の回復は企業部門に比べると遅れており、小売売上高は5月も依然前年比マイナス圏にある(図表1)。うちオンライン消費も、昨年までは前年比2割近い高い伸びを続けていたが、5月は4.5%増と低い伸びにとどまる。また、新車販売は政府の補助金もあって回復してはいるものの、増加分の3分の2は政府のトラック購入など商用車によるもので、個人による乗用車購入の伸びは相対的に低い。一定のソーシャル・ディスタンシングが求められ、国内外の往来制限も残る中では、中国に限らず、サービス分野をはじめとした消費の回復には時間を要するであろう。
中国はリーマン危機時に「4兆元経済対策」で投資を急増させた結果、債務に苦しみ、その後は投資主導から消費主導の経済への転換を図ってきた。(図表2)。今回も債務拡大には慎重であり、政策的な投資による景気刺激の余地は、以前ほどにはないといえよう。また、消費主導経済に転換したものの、その消費の回復が遅れる見込みであるため、GDPの回復も緩やかなものとなろう。そもそも人口高齢化や賃金上昇などで近年中国経済の成熟度は増しており、成長力は2000年代に比べると低下している。2009年の中国は実質9%の成長を維持したが、今年はゼロに近いプラス成長にとどまり、かつてほどの牽引力は期待できない。先進国には自らの政策による景気回復が求められるとともに、それでも先進国よりは高い中国の成長力を少しでも取り込めるよう、自由貿易体制の維持に努める必要があるだろう。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)
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