今月のグラフ(2020年9月)コロナ後を展望した設備投資が求められる

2020/09/09 中塚 伸幸
今月のグラフ
国内マクロ経済

コロナ禍の影響で4-6月期の実質GDPは前期比7.9%(年率換算28.1%)の大幅な落ち込みとなり、うち設備投資も前期比4.7%の減少となった。設備投資は先月の1次速報値から下方修正となったが、これは法人企業統計の設備投資額(季節調整値)が前期比6.3%のマイナスとなったことを反映した結果である。

法人企業統計から設備投資のやや長めの推移をみてみると(図表1)、リーマショック後に大きく減少した後、2013年頃からは回復基調が続いていた。これは、世界景気の拡大を受けて製造業の投資が回復したこと、人手不足対策とIT利用による省力化投資や物流面の増強投資が進展したこと、などが背景にある。ただ、昨年の後半ごろからは減少傾向に転じており、今般のコロナ禍でさらに大きく落ち込むこととなった。需要の低迷で足もと設備過剰感は高まっており、企業としてはやむを得ないところであろう。7-9月も弱い動きが続きそうだ。

一方、同じ法人企業統計から現預金残高の推移をみてみると(図表1)、リーマショック時の資金繰り苦境の経験から、企業は現預金の水準を従前の1.5倍程度の水準にまで着実に引き上げてきたことがわかる。このことが、今回のコロナ危機に際してのバッファーとして寄与したことは否定できない。直近ではさらに現預金を上積みしていることもみてとれる。災禍の中では「現金は王様」であるのは事実であろう。

しかしながら、供給サイドの観点からは、コロナ禍の先を見据えた設備投資が求められる。日本の設備投資は拡大基調にあったと述べたが、米国と比較してみると少し厳しい見方にならざるを得ない。図表2は、GDPベースの実質設備投資(季節調整値)を2002年1-3月期=100として示したものであるが、日本の水準は足もとでリーマン前をわずかに上回るにとどまるのに対し、米国は1.7倍程度にまで拡大している。また、米国の場合は設備投資の内訳が構築物、機械・機器、知的財産の3カテゴリーに分類して公表されているが、構築物と機械・機器の合計、すなわち有形資産投資(設備投資全体の6割強を占める)の伸びが相対的にやや鈍いのに対し、知的財産、すなわち無形資産(同4割弱)は堅調に増加を続けている。しかも、コロナ禍のもとでも有形資産投資に比べると減少幅は軽微である。こうした設備投資における質・量の差の累積が日米の企業競争力の差になって現れてきているのではないだろうか。

わが国産業界全体として今はまだコロナ禍に喘いでいる状況であるが、競争力の維持・強化のためには、やはり出来るだけ早期に、デジタライゼーションや非接触への対応など、先進技術を取り込む前向きな投資に打って出ることが求められる。とりわけソフトウェアなど知的財産への投資が重要だ。苦境時に頼りになるのはキャッシュだが、それだけでは将来につながらないことも認識しておかねばならない。

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