2019年度の年次別法人企業統計調査が公表された。四半期調査ですでに示された姿と基本的に違いはないが、あらためてわが国企業の全体像(金融・保険業を除く)をみてみると、昨年度は売上高が前年比▲3.5%、経常利益も同▲14.9%と、減収減益となった。景気後退局面にあって、消費増税のマイナスインパクトがあり、年度末には新型コロナ影響も顕在化した結果、リーマンショック時以来の大幅な減益となった。
こうしたなか、企業が生み出した付加価値のうち労働者に還元された比率である労働分配率は68.6%と前年から上昇したが、これは人件費の減少幅に比べて付加価値のほうがより大きく減少したことによるものだ(図表1)。労働分配率は2000年代に入ってから趨勢的に低下してきているが、その理由についてはグローバル化の影響や労働組合の組織力低下など、さまざまな要因が指摘されている。ただ、今般の反転をもってトレンドが変化したとはいえないだろう。人件費は付加価値に比べ上方にも下方にも硬直的であるため、労働分配率は増益時には低下し、減益時には上昇する傾向にある。リーマンショック時も分配率は大きく上昇したが、収益の回復とともに低下基調に戻っている。2020年度は新型コロナによる景気悪化でさらに大幅な減益が見込まれており、分配率はもう一段上昇する可能性が高いが、いずれ業績が回復に転じれば分配率も低下すると思われる。
労働者にとってみれば分配の比率もさることながら、賃金の実額、マクロでいえば人件費の総額が増加することが重要である。そのためにはまず企業が儲け=付加価値額を増加させることが必要だ。そして、その一つの重要な方策は、資本装備を強化して生産性を上げていくことであろう。この点、わが国企業の資本装備率(=土地等を除く有形固定資産÷従業員数)をみてみると、大企業も中小企業も近年は横ばいから微増程度で推移しており、伸びは限定的である(図表2)。両者の差も縮まっていない。有形固定資産だけでなくソフトウェアの装備率でも、大企業が一人当たり99万円であるのに対し中小企業は4万円と差が大きい。中小企業の生産性向上は今後に向けた課題の一つであり、デジタライゼーション等を取り込む投資を拡大する必要があろう。
コロナ禍の厳しい環境下ではあるが、中小企業を含めてわが国企業には攻めの資本装備が求められる。それによってもたらされる生産性と収益力の向上が、ひいては賃金上昇につながってゆくことを期待したい。
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