新型コロナウイルスの感染拡大が騒がれ始めてから1年が経過したが、コロナ感染拡大は人の流れにも変化をもたらしている。感染拡大防止のための人為的な行動抑制や、先行き不透明感のまん延により経済活動が大きく落ち込むと、人々の移動も抑制されると考えられる。企業は人事異動を必要最低限にとどめ、とりわけ感染拡大がもっとも顕著である東京への異動を抑えるようになるだろうし、都会での生活にあこがれを持つ若者も、入学、就職などのイベントがある場合を別とすれば、なにもわざわざこの時期に移住することもないと考えるだろう。
1月29日に総務省が公表した2020年の住民基本台帳移動報告によると、2020年1月~12月の1年間における都道府県間移動者数は日本人・外国人の合計で246万3992人(前年比-4.1%)と4年ぶりの減少となった。長期の時系列でとれる日本人の移動者数は224万7492人(前年比-2.2%)と、こちらも4年ぶりに減少した。このように、新型コロナウイルス感染拡大により、人の流れは確かに抑制されている。しかしながら、過去と比べて移動量が大きく落ち込んでいるというわけではない。日本人の移動の落ち込み幅である-2.2%は、過去に減少となった年の減少幅と比べてもとりたてて大きいとは言えなさそうだ。
2020年の人の移動で注目されるのは、移動の量よりも移動の方向だ。とりわけ、これまで問題を指摘されながら解決の兆しすらなかった東京一極集中に緩和の兆しがみられたという点である。2020年の「東京都への転入者数」から「東京都からの転出者数」をひいた転入超過数は、31125人と転入超過が続いているものの、前年に比べて51857人の減少、転入超過幅は6割減となった(東京都への転入者が減少し、東京都からの転出者が増加した)。東京都への人の出入りを月次でみると、5月に連続してデータのとれる2013年7月以来初の転出超となった後、6月は一旦転入超にもどしたものの、その後、7月以降12月まで6か月連続で転出超が続いている。コロナ禍の下、東京都からの人の流れの逆流が起きている。
もっとも、人の流れを見る時、都道府県単位で見るのはあまり適当ではないと言えるだろう。通常、経済活動は、一つの都府県内だけでは完結しない。東京で日々経済活動を営んでいるのは東京都民だけではないのは言うまでもないことだ。東京一極集中を考える際は、東京都単独で人の移動を見るより、周辺地域を含んだ東京圏(東京、神奈川、埼玉、千葉)でみるほうがより適当だ。東京都からの転出者が増えても、行先が神奈川県など東京圏にとどまっているのであれば、東京一極集中の程度は実質的には変わらないからだ。
2020年の東京圏の転入超過数は99243人と転入が転出を上回る状況が続いているが、転入超過数は前年に比べ49540人の減少、率にすると3割減と転入超過数は大幅に減っている。月次の動きをみても年後半、7月、8月、11月、12月と転出超となっている。コロナ禍の下での一時的現象である可能性もありうるが、東京圏でみても人の動きは足下で逆流が起きている。
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