コロナ禍に翻弄された2020年であったが、外為市場に目を向けると、三極通貨(米ドル・ユーロ・日本円)のうち最も堅調だった通貨はユーロだった。そのユーロ相場は年明け以降、軟調に推移している。
図表1は、ユーロの対ドルレートと欧米(欧州はドイツ)の10年債の利回り格差(金利差)の推移を重ねたものである。かつて為替を金利差の観点から説明する際には、政策金利による金融政策の動きがよく反映されるため2年債金利の利回り格差が利用されてきた。しかし近年は、世界的に金融資産(特に10年国債)の購入が金融緩和の主軸となったことなどから、10年債金利の利回り格差で為替を説明することが多くなっている。
これを見ると分かるように、欧米の金利差は2020年9月頃から徐々に拡大している。一方、それまで上昇が続いたユーロの対ドルレートは1ユーロ1.20ドル台でしばらく膠着したが、年末にかけて再び上昇気流に乗り、年明け1月6日には終値で直近の最高値となる1ユーロ1.2325ドルにまで上昇した。その後は相場が下落に転じ、本稿執筆時点(3月1日)で終値が1ユーロ1.2048ドルまで水準を下げている。そしてこの間、欧米の金利差は緩やかなテンポで拡大が続いた。
欧米の金利差が拡大した主な理由は米金利の上昇にある。米債の金利上昇がバイデン政権による大型の経済対策を背景にしていることは間違いないが、それが本質的には景気回復期待を好感した「良い金利上昇」であるのか、それとも財政の悪化を嫌気した「悪い金利上昇」なのか、識者によって見方が分かれるところだろう。一方で米国の金利の動きに連動してドイツの金利も上昇しているが、コロナ禍が深刻な欧州では欧州で信用力が最も高いドイツ債の需要が根強いため、金利は米国債ほど上昇していない。
欧米間の景気の温度差(20年10~12月期の実質GDPはユーロ圏が前期比年率-2.4%、米国が+4.1%)を考えれば、たしかに足元のユーロ安は欧米の金利差の拡大によって促されている側面が大きいと考えられる。他方で、EU(ユーロ圏)は近年GDPの3%近い経常収支黒字を維持しており、しかもそのほとんどを財の貿易黒字で計上している。安定した貿易黒字の存在は為替の実需がしっかりしていることを意味しており、構造的なユーロ高要因となっている。
たしかにユーロの対ドルレートは足元で下落しているものの、安定した実需に支えられていることから基調がしっかりしており、一方的なユーロ安を目指す可能性は低いだろう。そのうち米国の景気回復期待が一服し、金利の上昇に歯止めがかかれば、再びユーロは強含みもみ合いでの推移が見込まれる。
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