今月のグラフ(2021年6月) 米国の労働参加率と失業期間からみるコロナ後の雇用

2021/06/01 細尾 忠生
今月のグラフ
海外マクロ経済

米国経済は、大型の景気支援策の効果や、ワクチン接種の進展などから、景気回復の勢いが加速している。一方、景気回復にともない雇用も順調に回復しているものの、労働市場の状況には少し注意が必要である。米国の家計調査によると、「雇用者数」は、2019年12月に1億5,874万人とコロナ前のピークをつけた後、最悪期の2020年4月にかけて2,537万人減少した。このうち、「失業者」は1,727万人増加、雇用減少の約7割を占めた。同時に、そもそも職探しを断念し労働市場から退出、統計上の「非労働力人口」になった人々が782万人にのぼり、雇用減少のおよそ3割を占めた。

統計上の定義を整理すると、「生産年齢人口(16歳以上人口)」は、「労働力人口」と「非労働力人口」に区分され、このうち、「労働力人口」は、「就業者・雇用者」と「失業者」に区分される。今回の雇用悪化の特徴は、「失業者」の増加に加え、「非労働力人口」が急増(「労働力人口」が急減)し、労働参加率(労働力人口÷生産年齢人口)が大幅低下したことであり、これは、リーマン危機をはじめ過去の景気後退時にはみられなかった現象である。労働者の属性別にみると、労働参加率低下は、女性や大卒未満といった相対的に立場の弱い労働者で顕著とはいえ、男性や大卒者など全ての属性に共通している。

労働参加率低下の背景には、コロナ禍の特殊要因があった。第一に、コロナの感染が拡大した当初、経済活動を制限するロックダウンがいつまで続くのか見通せず、職探しをいったん断念した人が多数いたこと。第二に、その後、経済活動が段階的に再開されても、感染懸念から職探しに踏み切れない人々が多いこと。第三に、就学期の子供を抱え、学校再開の遅れにより仕事に出られない人々が存在することである。なお、労働参加率とは関係ないが、景気支援策の一環で失業保険給付が上積みされているため失業者にとどまる人々が多数存在しており、好調な米経済も、労働市場に着目すると一様ではない状況が浮かび上がる。

一方、コロナ禍に特有の要因で参加率が低下したのなら、コロナ克服後は参加率の回復が期待できるが、それにより雇用が改善するか必ずしも楽観視できない。失業期間が長期化しているためである。すなわち、黒人、ヒスパニックなどマイノリティを中心に、今なお職を見つけられず失業期間が長期化している人々が増加、コロナ禍で「非労働力人口」になった人が求職活動の再開後、すぐに職がみつかるわけではないことを示唆している。特に、コロナ後の世界では、デジタル化の一層の進展など経済構造が大きく変化する中、各人の熟練(スキル)によっては、職探しが困難となる人々が増加するリスクが高い。

実際、雇用の減少幅は最悪期の2,537万人減から、足元は756万人減まで持ち直したが、これはリーマン危機後の最悪時の837万人減とほぼ同水準であり、雇用環境はいまだリーマン危機当時とほとんど変わらない。一見すると好調な米経済も、内側に様々な問題を抱える。マイノリティの雇用環境は、与党・民主党が重視する政策分野でもあり、このような構造問題が、今後、米経済にどのような影響を与えるのか、米中の景気回復に依存する日本経済にとっても重要な視点である。

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