原油相場の動向を振り返ると、2020年4月に米国産原油のWTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は1バレル=マイナス40.32ドルと「マイナス価格」をつけ、欧州北海産のブレントも15.98ドルに落ち込んだが、その後は持ち直した。2021年に入ると、ワクチン接種の進展や経済正常化への期待から原油相場はコロナ前の水準を回復した。夏場にかけては、アジアや欧州などでの新型コロナのデルタ株の感染拡大や米量的金融緩和の早期縮小見通しなどが弱材料になったものの、石油需要回復期待は維持された。
なお、石油輸出国機構(OPEC)にロシアなど非OPEC産油国を加えた「OPECプラス」による協調減産体制は、ロシアとサウジアラビアが対立した2020年春にいったん崩壊したが、2021年夏にも協調体制の崩壊が危ぶまれる事態に陥った。すなわち、7月のOPECプラスの協議は、サウジとアラブ首長国連邦(UAE)の対立が先鋭化して決裂してしまった。その結果、既定路線とみられていた増産の決定が出来ず、タイトな供給状態が続くとの見方から、7月6日には、一時、WTIが76.98ドルと2014年11月以来、ブレントが77.84ドルと2018年10月以来の高値をつけた。しかし一方で、協調減産体制にひびが入り、増産を始める産油国が出てくる可能性も意識され、この日は、結局、下落することになった。
その後、サウジとUAEが譲歩案で合意し、7月18日にはOPECプラス全体でも今後の生産方針で合意した。8月から生産量を毎月日量40万バレルずつ増やす、2022年4月末を期限とする協調減産の枠組みを12月末まで延長する、一部の国について減産の基準となるベースライン生産量を来年5月から引き上げる、などが合意内容だった。この増産合意に加えて、デルタ株の感染拡大への懸念もあって、7月19日の原油相場は急落したが、その後、経済正常化に伴う石油需要の増加はOPECプラスによる増産分を上回るとの見方に落ち着き、原油相場はいったん持ち直した。
しかし、デルタ株の感染拡大による石油需要鈍化懸念が一段と強まり、相場は再び下落した。夏場には米中の景気減速を示唆する経済指標が散見された。もっとも、景気減速感から、年内に量的緩和策を縮小する米連邦準備制度理事会(FRB)の方針が修正を迫られれば、原油安の一因であったドル高の進行が一服するかもしれない。このようにデルタ株の動向に原油相場は敏感に反応しようが、その方向感は必ずしも定かではない。そもそもデルタ株感染の動向がどのように展開するかも不透明である。
イラン核合意の再建が進むのかや、OPECプラスの協調体制がいつまで維持されるかといったことも不透明要因になっている。9月1日のOPECプラスの閣僚級会合では既定路線通り日量40万バレルの増産が決定されたが、事前には一部産油国から増産に懐疑的な声もあった。ハリケーンの米国上陸の影響で停止している石油施設が復旧すれば、相場はやや下落するにしても、上述のような不透明要因を背景とした相場の不安定さや方向感のない動きは続くと思われる。やや長い時間軸で見ると、世界の石油需要の持ち直しを受けて、原油相場は緩やかに上昇すると見込まれる。
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