2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻を行った。これに対し、米国を中心とした西側主要国は、SWIFT(国際銀行間通信協会)が運営する国際資金決済網からの一部銀行の排除や、プーチン大統領をはじめとしたロシア高官の資産凍結、ハイテク製品の輸出規制などの経済制裁を発動した。日本も歩調を合わせ、3月11日に工作機械や高性能な半導体といった品目の対ロシア輸出を禁止するなど、各種制裁を講じている。これに対し、ロシアは日本を「非友好国」に指定し、北方領土に進出するロシア企業への法人税等免除、北方領土配備の地対空ミサイルシステムの訓練実施などの対抗措置を打ち出した。このまま両国間の制裁の応酬がエスカレーションし、経済的分断が深まった場合、日本経済に影響が及ぶことは避けられない。
日本とロシアの間の通商関係を確認すると、2021年の日本からロシアへの財輸出は0.9兆円と、輸出全体の1.0%を占めるに過ぎない(図表1)。同様に、2021年のロシアからの財輸入は1.5兆円(全体の1.8%)であり、2020年のサービス輸出、サービス輸入はそれぞれ500億円(同0.3%)、900億円(同0.4%)となっている。さらに、日本からロシアへの直接投資は、残高が2020年末で2500億円と、日本が世界に持っている対外直接投資残高(資産)の0.1%にとどまるなど、マクロでみると日本経済におけるロシアの存在感は小さい。
ただし、財の輸出入について詳細をみると、ロシアとの関係が重要な品目もある。輸出を品目別にみると、自動車関連や建設機械関連が上位を占めるが、いずれも、輸出相手国別でロシアが占める割合(対ロ依存度)は、日本の輸出総額に占めるロシア向けの割合(1.0%)を上回る(図表2)。さらに、より細かいHSコード6桁でみると、ブルドーザー(「キャタピラー」式)(HSコード:842911)、ダンプカー(同:870410)の対ロ依存度は、それぞれ19.3%、16.5%と高い。ロシアはエネルギー・鉱物資源の埋蔵量が多く、採掘に用いる機械への需要が大きいことが背景にある。
また輸入は、輸出以上にロシアへの依存度が高い品目が多い。ロシアからの輸入は、エネルギー資源、鉱物資源、水産資源が多く、特にアルミニウムや魚(冷凍)は2割近くをロシアからの輸入に依存している。HSコード6桁の品目をみると、冷凍の紅鮭(HSコード:030311)やウニ(同:030821)、冷凍のカニ(同:030614)の対ロ依存度はそれぞれ78.8%、77.3%、53.3%と高いほか、自動車の排ガス触媒や銀歯用の合金に使われるパラジウム(同:711021)も34.6%と、多くをロシアに依存する。
したがって、ロシア経済との分断が深まった場合、建設機械を輸出する企業、アルミニウムやパラジウムを生産過程で用いる産業などへのピンポイントな影響が懸念される。また、多くの企業が生産活動で用いるエネルギーや、家計が日常生活で必要とするエネルギーや魚介類などの輸入が滞れば、日本経済全体に広く影響が及ぶ恐れもある。こうしたリスクに対応するため、輸出入で対ロ依存度の高い品目について、仕向先/調達元の多様化や、代替財の模索を急いで進める必要があろう。
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