今月のグラフ(2022年6月) 明暗を分ける東名阪の雇用情勢

2022/06/03 塚田 裕昭
今月のグラフ
国内マクロ経済

2020年から続くコロナ禍の中であっても、日本全体では緩やかな改善が見られる雇用情勢だが、地域別の動きを見ると地域によって温度差がある。三大都市圏の中心都府県である東京都、愛知県、大阪府の有効求人倍率(就業地ベース、季節調整値)の推移を見ると、愛知県は2020年11月の1.00をボトムに改善に向かい直近の4月では1.30まで上昇してきているのに対し、東京都では2020年7月以降、大阪府では2020年8月以降に1を下回り、足下まで1を下回る状態が続いている(図表1)。有効求人倍率=有効求人数÷有効求職者数であるから、これが1を下回るということは求人数が求職者数を下回るということで、東京都、大阪府では厳しい雇用環境が続いている。

このような違いがなぜ生じているのか。有効求人倍率の分子と分母の動向をそれぞれ見ると、分母である有効求人数のコロナ後の動きは、東京都、愛知県、大阪府で大きな違いはない(図表2)。いずれの都府県でも有効求人数は、おおむね2020年半ば以降、増加傾向にある。日銀短観の雇用判断DIなどでも確認できるように、企業の人手不足はコロナ禍であっても続いている。企業の人手不足を背景に、求人数は、有効求人倍率が1を下回る東京都、大阪府であっても増えている。

異なるのは、分母である有効求職者数の動きだ。有効求職者数は、東京都、大阪府では増加傾向で推移している一方で、愛知県では減少傾向となっている(図表2)。有効求職者数の動きの違いが有効求人倍率の違いにつながっている。では、有効求職者数の動きの違いはなぜ起きているのだろうか。どのような状況下で求職者が増えるかを考えると、まず考えられるのは失業者が増えた場合であろう。失業者が増えれば、普通に考えれば、新たな職を求めて求職者が増えることになる。そこで、地域別の失業率を見てみると(都道府県別の失業率は公表されていないので、地域ブロック別の失業率を見てみる)、南関東、関西の失業率が直近の2022年1-3月期でそれぞれ2.8%とコロナ感染拡大以降、高止まりとなっている一方、東海の失業率は1.9%と過去と比べても低い水準となっている。

愛知県(東海)は、失業者数が増えていないがゆえに求職者数が増えていないと考えることができるだろう。愛知県は、日本を代表する自動車会社の拠点地であり、工作機械などの生産もさかんな“ものづくり”主体の地域であることから、製造業で働く人の割合が相対的に高い。コロナ感染拡大後の製造業と非製造業の業況を考えてみると、人の流れの抑制の影響を大きく受けたサービス業など非製造業に比べて、製造業の業況は相対的に良好だ。もちろん、半導体など部品不足により、足下の生産動向は自動車産業を中心に持ち直しの動きに一服感がみられる面もあるが、工業製品への需要自体は根強いものがあり、部品さえ調達できれば、生産水準を引き上げたいという状況だ。逆に東京、大阪などは、サービス業など第三次産業で働く人の割合が高く、コロナ禍で失業率が高止まりしている。加えて、人の移動状況をみても、20年、21年とも東京都、大阪府は転入超過、愛知県は転出超過となっている。こういった事情が、東京都、愛知県、大阪府の求職者数の動向、ひいては有効求人倍率の動向の違いの一因となっていると考えられる。

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