今月のグラフ(2022年7月) 加速が止まらないトルコのインフレ

2022/07/05 土田 陽介
今月のグラフ
海外マクロ経済

インフレの加速は世界的な現象だが、その中でもトルコのインフレは深刻である。直近6月の消費者物価は前年比78.6%上昇と13ヶ月連続で伸びが加速、上昇率は1998年10月以降で最高となった(図表1)。また消費者物価の先行指標となる生産者物価も6月は前年比138.3%上昇しており、伸びの加速が止まらない。

トルコが深刻なインフレに苛まれている最大の理由は、トルコの通貨リラの価値が下落していることに他ならない。リラ相場はすう勢的にドルや円に対して下落基調で推移してきたが、直近では2021年12月に大暴落した。その理由は、エルドアン大統領に配慮したトルコ中央銀行が、利上げを進めるべき局面で利下げを続けたことにあった。当時、トルコではインフレがすでに加速していたため、利上げが必要であった。一方、米国では利上げ観測が高まっており、通貨防衛の観点からもトルコ中銀は利上げを行うべきだった。にもかかわらず、エルドアン大統領への配慮を優先したトルコ中銀は利下げを進めたのである。

結果的に、2021年のリラの対ドル相場の年間騰落率は終値ベースで▲79.0%と、リラの対ドルでの価値はほぼ半減した(図表2)。2022年に入っても、トルコが金利を据え置く一方で、米国が利上げを進めているためリラの下落が進んでおり、2022年前半の騰落率は終値ベースで▲27.3%となっている。このようにリラ安に歯止めがかからないことが、トルコのインフレの加速につながっている。

加えて国際商品市況の上昇、特に石油やガスといった化石燃料の価格高騰がトルコのインフレの加速を促している。トルコは化石燃料の大部分を輸入に頼っている。そうした化石燃料の価格は、産油国による生産調整やコロナ禍の収束に伴う需要の回復を受けて、2021年後半から急速に上昇した。加えて、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻したことで、石油やガスの価格が急騰することになった。

リラ安と化石燃料の価格高騰で、国民の生活に直結するガソリン価格は急騰している。ヨーロッパ各国のガソリン価格を比較したロシアのサイト「オートトラベラー」(https://autotraveler.ru)によると、トルコのガソリン(Super 95)平均価格は2021年12月28日時点でリッター0.951ユーロであったが、2022年7月2日時点で1.453ユーロと半年間で65.5%も上昇した。

エルドアン政権は家賃の引き上げ率に上限を設けるなど、事実上の価格統制を行うことでインフレ加速の影響を緩和させようとしている。とはいえ、トルコに求められる真の経済政策は利上げに他ならない。利下げこそが物価の安定につながると主張してはばからないエルドアン大統領に配慮する限り、トルコ中銀は利上げを回避することになる。そしてそうした中銀の政策運営がさらにリラを下落させ、インフレを加速させることになる。トルコが置かれている状況は非常に厳しいと言わざるを得ない。

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