今月のグラフ(2022年9月)建設コストの増加で悪化する貸家の採算性 ~コロナ禍で変わる需要に対応できるかがカギ~
住宅の建設コストが増加している。背景にあるのが、「ウッドショック」や「アイアンショック」と呼ばれる世界的な建設資材価格の高騰である。経済調査会「建設資材価格指数」によると、2022年7月の建設資材価格(建築・全国)は前年比+26.5%の大幅上昇となっており、住宅の建設コストは今後さらに増加していくと見込まれる。
こうした住宅の建設コストの増加は、住宅需要の中でも特に採算性が重視される投資用の賃貸住宅の需要に悪影響を及ぼす懸念がある。貸家の採算性を表す指標として「貸家採算性指数」がある。これは賃貸経営から得られる家賃を賃貸住宅の建築費負担で割ったもので、指数が上昇すれば採算性の改善、低下すれば採算性の悪化を意味する。
図表1は貸家採算性指数と貸家着工の関係を表したものである。貸家生産性指数の推移を見ると、実は足元だけでなく2013年度以降、一貫して低下している姿が確認できる。これは、分子の家賃が緩やかに低下する中、分母の建築費負担が人件費や資材価格の上昇を受けて増加が続いているためである。この間、貸家着工について見ると、着工戸数は2016年度にかけて増加傾向で推移するなど貸家採算性指数と必ずしも連動していない一方、着工1戸当たりの床面積は低下傾向となっており、貸家採算性指数と連動して推移している。
以上を踏まえると、これまで賃貸住宅の供給側は、住宅建設コストの増加による採算性の悪化に対して、貸家の着工戸数そのものを抑制するのではなく、1戸当たりの床面積を小さくすることで対応してきたと解釈できる。
もっとも、足元ではこれまでと異なる動きも確認できる。改めて図表1を見ると、世界的な建設資材価格の高騰により、足元にかけて貸家採算性指数が一段と低下する中、逆に貸家着工1戸当たりの床面積は増加している。ここで図表2は、直近5年度分の貸家着工戸数の規模別の構成割合(シェア)を表したものである。コロナ前から30平米以下の貸家のシェアが縮小し、代わりに31平米以上の貸家のシェアが拡大傾向にあるが、2021年度から足元にかけては31~50平米よりも広めの51~70平米の貸家のシェアの拡大幅が大きく、また足元では71平米以上の貸家のシェアも一段と高まっている。
企業やオーナーが貸家の供給姿勢を変化させている理由は明確でないものの、コロナ禍でのテレワークやオンライン教育の普及を背景に住宅の広さを重視するニーズが強まる中、建設コストの増加に対して規模の縮小で対応するよりも、付加価値のある貸家を建てて競争力を高めた方が、結果的に採算性の改善につながるとの考えを強めている可能性がある。こうした動きが家賃の上昇につながれば、GDPの押し上げにも期待できることから、日本経済にとっては前向きな動きと言えよう。
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