中国では、2022年3月後半から5月にかけて上海で大規模なロックダウンが実施され、個人消費が大きく落ち込んだ。個人消費を販売側から見た小売売上高は、飲食サービスを中心に3~5月に前年割れが続いた(図表1)。もっとも、落ち込みが大きかった分、ロックダウン解除後にはリベンジ消費が盛り上がり、個人消費が2022年後半の中国経済の牽引役となることが期待された。
確かに、上海でのロックダウンが解除された後、小売売上高は6月にプラス成長を回復した。内訳をみると、自動車販売は、購入税減税など手厚い政策支援を背景に上海ロックダウンでの落ち込みから急回復したほか、医薬品類や金銀宝飾類の売上も大幅に増加した。医薬品類はコロナ禍で需要が強く、金銀宝飾類は海外旅行に行けなくなった富裕層からの人気を集めた。
もっとも、コロナ前まで、小売売上高は前年比8%以上の増加が続いていたことを考えると、個人消費の回復力は弱い。さらに、9月に前年比+2.5%まで伸びが鈍化、10月には同-0.5%と再び前年割れし、回復に早くも歯止めがかかった。10月1日から7日にかけての大型連休である国慶節休暇は、コロナ前まで代表的な旅行シーズンだったが、旅行人数、消費額とも前年から減少し、コロナ前2019年のそれぞれ6割、4割程度の水準にとどまった。また、11月11日の「独身の日」に合わせて実施されたECセールは、業界最大手のアリババが運営するTmall(天猫)の売上が前年並みの水準にとどまるなど、盛り上がりに欠けた。
個人消費低迷の背景に、ゼロコロナ政策の継続と新型コロナウイルス感染症の再拡大がある。まず、新型コロナ新規感染者数は、上海でロックダウン実施中の4月中旬にピークアウトしたものの、7月下旬以降、海南省で感染が拡大するなど、感染症の局地的な流行が続き(図表2)、そのたびに地元政府が行動制限を強めたため、旅行や飲食など接触型サービス消費を中心に個人消費の回復にブレーキがかかった。また、11月に入ると感染が本格的に再拡大し、11月27日には新規感染者数が初めて4万人を超えた。4月の感染拡大局面では、上海市の感染者数が全国の約95%を占めたのに対し、11月は重慶市や広東省、北京市を中心に幅広い地域で流行した。このため、3~5月の上海ロックダウンほどの厳格さはないものの、部分的なロックダウン措置が各地で頻繁に実施され、個人消費は一段と減少し、小売売上高の前年比マイナス幅は拡大したとみられる。
さらに、若年層を中心とした雇用情勢の悪化や所得の伸び悩み、豚肉などの食品やガソリンといった身近な物の価格上昇も個人消費回復の重石となっている。これらの消費を取り巻く環境は当面改善が見込めないほか、新型コロナ感染症の流行も収束の兆しはなく、ゼロコロナ政策は最短でも来年3月の全国人民代表大会(全人代)までは続けられる公算が大きい。その後も同政策は継続される可能性が高いとみられ、リベンジ消費の盛り上がりはしばらく期待できない。
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