今月のグラフ(2023年2月) 世界景気を反映する銅相場、上昇傾向も先行き不透明

2023/02/03 芥田 知至
今月のグラフ
海外マクロ経済
商品市況

銅は、エアコン、自動車、建築物、発電設備など幅広い分野で利用されるため、その相場は世界景気の動向を敏感に反映する。例えば、世界の鉱工業生産と銅相場は連動性が高く(図表1)、銅相場は世界景気の先行指標として取り上げられることもある。

その銅相場は2022年に乱高下した。3月にロシアのウクライナ侵攻を巡って需給逼迫懸念が高まった際に史上最高値である1トンあたり1万845ドルをつけ、7月に中国のゼロコロナ政策や米国の利上げを受けて世界需要の鈍化が懸念された際には安値の6955ドルをつけた。その後、9~10月は一進一退で推移し、11月以降はやや騰勢を強め、2023年に入って9000ドル台を回復した。1月18日には一時9550ドルと7月の安値からは37%上昇した。一部では、遠くない将来に、史上最高値を更新するとの見方も出ている。しかし、その趨勢は、先行き不透明感が強い米中の景気動向に左右されそうである。

最近の銅相場上昇の背景には、米金融政策や中国のゼロコロナ政策を巡る不透明感が後退したことが大きい。

まず、米インフレがピークアウト傾向を示す中、連邦準備制度理事会(FRB)は利上げのスピードを鈍化させた。昨年12月の連邦公開市場委員会(FOMC)後に明らかにされた委員らの見通しによると、米政策金利は今年末までに5.00~5.25%に引き上げられるとの見方が多く、一部はさらなる大幅利上げを見込んでいた。パウエルFRB議長の発言などからすると、現時点でも大勢は変わっていないと見込まれる。一方、市場参加者の間では、景気減速から利下げに転じるタイミングが近づいているとの観測が出ている。米金利上昇の到達点に目途がつき始めている。

中国では、秋の共産党大会で習国家主席一強体制が鮮明となって堅持されるかにみえたゼロコロナ政策が撤廃される動きになった。今年1月8日からは、感染者の隔離措置なども取られなくなった。感染が爆発的に拡大して景気下押し要因になったが、いずれ感染は収束して景気押上げ効果の方が大きくなるとみられた。ゼロコロナ政策撤廃などを受けた人民元高も中国の銅需要を押し上げに働くと思われる。

電気自動車(EV)やグリーンエネルギー関連の需要増や、チリでの鉱石品位の低下、ペルーでの地域住民の抗議活動の増加、インドネシアの資源政策、各地鉱山でのストライキの可能性など供給面の懸念も銅高材料だ。

もっとも、米国の利上げの到達点が見え始めたことは安心材料だが、その前提となるインフレの終息など米国経済の軟着陸が実現するかは心もとない。米金融政策をめぐっては、FRB内と金融市場内で見方にギャップがある状態であり、それが修正される過程ではドル相場などに波乱が生じる可能性もある。足元のようにドル安が続けば銅相場の上昇につながりやすいが、市場の利上げ観測が強まり、ドル高が進むようだと、ドル建ての銅相場は割高感から売られやすくなる(図表2)。また、中国景気の回復期待はあるが、コロナ感染拡大の後遺症や不動産不況の影響がどれほど景気を下押しするかは不明である。多少先行きが見通しやすくなってきたとはいえ、引き続き、銅相場の先行きは読みにくい状態が続きそうだ。

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