欧州中央銀行(ECB)は3月16日に定例の政策理事会を開催し、3種類ある政策金利をそれぞれ0.5%ポイントずつ引き上げた。その結果、政策金利の中心である主要リファイナンス・オペ金利は年3.5%と、2008年11月以来の高水準になった。ECBは前回2月2日の政策理事会後の声明で、3月の政策理事会で0.5%ポイントの追加利上げを実施すると表明しており、それを実行したかたちとなった。
ECBは、2022年12月の政策理事会より3回連続で、0.5%ポイントの大幅な利上げを行ってきた。その最大の理由は、物価の上昇に歯止めがかからないことに他ならない。ユーロ圏の最新2023年3月の消費者物価は前年比6.9%上昇と、前月(同8.5%上昇)から伸び率が低下したものの、その水準はECBの物価目標水準(2%)を依然として大きく上回っている(図表1)。家計と企業のインフレ期待を和らげるためにはハイピッチでの利上げが必要となるというのが、ECBの一貫した立場である。
3月初めには、ECBの政策金利がすでにターミナルレート(利上げ局面で上限となる水準)近傍にあるとの認識が金融市場で広がっており、ECBは早ければ5月4日の政策理事会で利上げ幅を0.25%ポイントに圧縮し、さらに6月15日の政策理事会か7月27日の政策理事会で、追加利上げを打ち切るという見方が台頭していた。しかしながら、3月16日の政策理事会の直前に欧米で金融不安が高まったことを受けて、ECBの利上げが予想よりも前ズレで終了するという見方が有力となっている。
まず3月10日、ECB以上にハイピッチでの利上げに努めてきた米国で、米銀大手のシリコンバレー銀行(SVB)が経営破綻に陥り、同月12日にはシグネチャー・バンクも経営破綻した。この流れが欧州に飛び火し、長らく経営不安が続いていたスイスの金融2位クレディ・スイスを中心に、欧州の銀行株が急落することになった(図表2)。結局、クレディ・スイスは、スイス政府の仲介の下、同業でスイス最大の金融機関であるUBSに30億スイスフラン(約4200億円)で買収されることになったが、金融不安はくすぶり続けている。
このように欧米が金融不安を抱える中で実施された3月16日の政策理事会だったが、ECBは予告通りに0.5%ポイントの大幅利上げを実施した。一方でECBは、金融の安定に配慮する必要が高まっているという認識を示すとともに、場合に応じて流動性を供給する準備があると明言した。3月19日にはECBを含む主要6中銀がドルスワップ協定を通じた流動性供給を4月末まで協調で行うと発表し、金融市場の安定化に努めた。
ECBや米FRB(連邦準備制度理事会)など各国中銀の政策協調もあり、金融市場は徐々に落ち着きを取り戻している。とはいえ各国中銀は、もはや物価の安定のみならず、金融の安定にも配慮せざるを得なくなっている。特に金融不安の火種を抱える欧州経済の実情に鑑みれば、ECBの今回の利上げ局面は「終わりの始まり」を迎えたと判断される。
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