今月のグラフ(2023年5月)所得再分配からみた子育て政策の財源負担のあり方

2023/05/08 中田 一良
今月のグラフ
社会保障制度
財政

日本の社会保障給付費のGDP比は、2020年度には新型コロナウイルスの感染が拡大した影響で、雇用調整助成金などをはじめ、社会保障給付が増加した一方、名目GDPが落ち込んだことから、大きく上昇した(図表1)。2019年度までの動向をみると、2010年代に入ってからはそれ以前と比較すると上昇のペースは鈍化して横ばい傾向になってはいるものの、長期的にみると上昇傾向で推移している。分野別にみると、年金と介護が含まれる「高齢」や「保健医療」のGDP比が上昇しているほか、規模はそれほど大きくないものの、児童手当などが含まれる「家族」のGDP比も上昇が続いている。

こうしたなか、合計特殊出生率は2021年には1.30となり、6年連続で低下した。少子化の進展を背景に、政府は、「こども・子育て政策の強化について(試案)~次元の異なる少子化対策の実現に向けて~」を2023年3月末に公表した。その基本的な柱は、ライフステージを通じた子育てに係る経済的支援の強化、全てのこども・子育て世帯を対象とするサービスの拡充、こども・子育てにやさしい社会づくりのための意識改革である。

こども・子育て政策の強化の最終的な内容は、今後、議論されて決定されるが、その財源が、赤字国債の発行によるものであれば政策の持続性が懸念されることになるだろう。政策の持続性に対する信頼を得るためには安定的な財源を確保する必要があるが、問題はいかに確保するかである。防衛関係費増額の財源確保のために歳出削減を行う方針が示されているなか、さらなる歳出削減によって財源を確保することは難しいだろう。

図表2は、直接的な世代間所得移転であり、高齢者の生活を支えている年金を除く税・社会保障による世代間の所得再分配の状況をみたものである。具体的には、年金を除く社会保障給付から年金を除く社会保険料負担と所得税などの税負担を引いたものを純給付額とし、年金などの社会保障による現金給付を含む所得に対する比率を世帯主の年齢別に表している。70歳以上では医療、介護へのニーズが高いことを反映して、これらの現物給付(実際にかかった費用と自己負担額との差)が大きいことからプラスとなっている一方、60代以下ではマイナスとなっている。消費税の負担を考慮してもこうした状況は大きくは変わらず、年金以外の税・社会保障制度によって、高齢者世帯へ所得移転が行われていることがみてとれる。

政府は全世代型社会保障の構築を目指しており、2022年10月には一定以上の所得がある後期高齢者の医療費の自己負担割合が1割から2割に引き上げられた。また、後期高齢者の医療保険料を今後引き上げる方針を示している。もっとも、医療費の自己負担割合が引き上げられた対象は2割にとどまっており、世代間の所得再分配の状況は大きく変わっていないと考えられる。こうしたことを考慮すると、こども・子育て政策の強化のための財源は、高齢者も含めた全世代がその能力に応じて負担することが全世代型社会保障にふさわしいと考えられる。

図表1 日本の社会保障給付費の推移
日本の社会保障給付費の推移
図表2 税・社会保障(年金を除く)を通じた所得再分配の状況
税・社会保障(年金を除く)を通じた所得再分配の状況

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