南アフリカ経済は、2000年代半ばに高成長を遂げたが、近年は低成長傾向に陥りつつある。アパルトヘイト廃止後の南アフリカ経済は、1994年の黒人政権発足を受け、1996年頃には、内需を中心に好調な動きを見せた。その後、2004~2007年にかけては、個人消費主導で景気が拡大したが、これは、資源価格上昇を背景として、雇用・所得環境の改善、通貨高、株価上昇による資産効果、といった要因が個人消費拡大を後押ししたものだった。また、2003年から2006年まで続いた低金利と民間銀行による低所得層向け融資拡大といった金融面の要因も、個人消費拡大を支えたと見られる。しかし、リーマンショックが発生した2008年には、個人消費の大幅な鈍化で経済成長率は減速し、2009年には、個人消費、投資、輸出が全てマイナスとなり、経済成長率はマイナスに転落した。その後、景気は、個人消費主導で回復したが、2012年以降、景気は再び鈍化傾向に陥り、成長率は、2012年と2013年には2%台、2014年と2015年は1%台に沈んだ。景気鈍化は2016年に底を打ち、2017年はやや成長が加速したが1%台と低調だった。2020年には、コロナショックによって景気は大幅に落ち込んだが、2021年に急回復した。2022年も景気回復傾向は続いたが、成長率は2.0%と低い伸びにとどまった。南アフリカの経済成長率が近年低い伸びにとどまっている理由を需要項目の面から見ると、2000年代半ばに絶好調であった個人消費が2010年代以降低迷状態に陥っていることが大きく影響している。
南アフリカの個人消費が低迷している背景として、南アフリカの雇用環境が非常に悪いという点を忘れてはならないだろう。実際、南アフリカの失業率は、足元で30%を超えており、主要な新興国をみても、これほどまでに失業率の高い国は見当たらない。南アフリカでは、反アパルトヘイト運動の一環としてストライキが激化したこともあり、1980年代以降、失業率が上昇し、1994年の黒人政権発足直後に一時低下したものの、その後も上昇傾向が続いた。これは、南アフリカの基幹産業である鉱業部門で伝統的な主力産品であった金の生産量が減少したため労働力需要が低下するなど、構造的な要因が影響したためと見られている。南アフリカの失業率は、1998年以降、20%を下回ったことがなく、2003年頃には25%を超えて30%に近づいていた。南アフリカは、2000年代半ばには5%台の経済成長率を達成したが、25%を超えるような高失業率で、なぜ5%台の高成長率を達成できたのかは一種のミステリーだとの指摘さえあったほどである。失業率は、コロナショックのため2021年に35%近くまで上昇したが、2022年には若干低下した。とはいえ、30%台の高失業率では個人消費の本格回復を期待するのは難しい状況である。
南アフリカの失業率の高さは、人口の8割を占める黒人の失業率が著しく高いことが影響している。南アフリカではエスニックグループ間の失業率格差が大きく、白人の失業率は7%台にとどまっているが、黒人の失業率は37%台にも達している。黒人の失業率の高さの背景として、アパルトヘイト時代に黒人の教育環境が劣悪だったことによる後遺症で黒人の知識・技能が雇用者側の求める水準に達していないことなどが指摘されている。これは、逆に言えば、黒人の教育・技能訓練を改善し就労を促進すれば、所得が増加し個人消費を押し上げ経済成長率を高めることが可能ということである。つまり、今後、南アフリカは、未稼働の大量の労働力を稼動させ富を生み出せる余地が非常に大きく、それが今後の経済成長戦略の中核であると言える。
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