2023年の関西を振り返ると、なんと言っても、阪神タイガース、オリックス・バファローズのリーグ優勝、関西ダービーを制しての阪神タイガースの38年ぶりの日本一があり、多くの人にとって記憶に残る年であったと思われる。
では、関西の景気も、阪神優勝に勢いづけられて好調な1年となったと言えるだろうか?タイガース優勝に絡めて関西経済を語るとき、しばしば話題にあがるのが「優勝の経済効果」である。球団の優勝が近づくと、球場への観客動員が増え、関連グッズが売れ、飲食店の客数が増える。優勝決定後は、優勝祝賀セールもあって百貨店など小売店の売り上げが増加する。経済は相互に関連していることからタイガース優勝と直接関係のない業界への波及効果もあり、相応の経済効果が見込まれるというものだ。
ところが、過去のタイガースが優勝した年の関西の年度ベースの実質成長率をみてみると、経済効果にもかかわらず、あまりパッとして こなかった(図表1)。前回、タイガースが日本シリーズで勝利して日本一に輝いた1985年の関西(2府4県)の実質経済成長率は+3.5%と近年の低成長に比べるとそれなりの伸びではあったものの、全国の+4.7%を下回った。関西ではタイガース優勝の経済効果があったにもかかわらず、効果の恩恵が小さい他地域よりも低い成長にとどまった。日本一は逃したもののリーグ優勝あるいはクライマックス・リーグ勝利で日本シリーズ出場となった2003年、2005年、2014年の成長率をみても、関西の景気が他地域と比べてとりたてて良いわけではなかった。
関西2府4県の経済規模(2020年度の名目域内総生産86兆円)に比べると、タイガース優勝の経済効果は大きくないというのが主な理由であるが、加えて、そもそも経済効果というものがどういう数字であるかを知っておくことも有用であろう。通常、経済効果を試算するときには、優勝に絡んで増えた新たな消費額等を積み上げ、産業連関表などを使って阪神優勝とは直接関係のない業種への間接的な波及効果も計算し、それらすべてが積み上げられる。ただ、注意すべきは、優勝で生まれた新たな需要の裏側で見送られることになったマイナス効果の積み上げは、多くの場合なされない。阪神優勝のお祭り気分で財布の紐が緩んでも、多くの人は、所得がさして増えていない状況であれば、他の支出や、その後の支出を減らすなどして、トータルの支出があまり増えないように調整すると考えられるが、この部分は基本的に考慮されない。経済効果は短期のプラス効果の積み上げにすぎないのだ。年度の経済成長率を算出する際には、これらのマイナス要因も含めて計算されることとなるため、年度を通してみると、阪神が優勝したからといって、それほど高い成長にはならないという結果となりうる。
では、今年度の関西の経済成長率は他の地域と比べてどうなるであろうか?個人消費、生産、輸出といった景気動向を把握する上で重要な指標の動きをみると、今年度の関西は、全国と比べ決して強いとは言えず、むしろ弱い状況である(図表2)。これらの数字は、まだ阪神優勝の経済(波及)効果は含まれていないが、この後、それが反映されたとしても、消費前倒し分のその後の揺り戻しなども考慮すると、年度を通じた関西の経済成長率は、過去と同様、阪神優勝があったもののあまりパッとせず、「アレ、あれ?」という結果となる可能性は十分ありうるだろう。
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