今月のグラフ(2024年2月)個人消費の今後のリスク要因

2024/02/05 中田 一良
今月のグラフ
国内マクロ経済

2023年に入って家計の名目可処分所得の増加ペースが鈍化する中、物価上昇が続いており、2023年7~9月期の実質可処分所得は前期比-0.5%と4四半期連続で減少した(図表1)。こうした所得環境の下、コロナ禍で落ち込んだ後、緩やかながらも回復傾向で推移してきた実質個人消費は、このところ伸び悩んでいる。

実質個人消費の内訳をみると、食料品などが含まれる非耐久財は、食料品の価格上昇の影響で2022年以降は減少傾向で推移している。自動車や家電などの耐久財は、部品不足を背景とする自動車製造業における供給制約の緩和を背景に増加してきたが、足もとでは頭打ちとなっている。財消費は全体として価格上昇の影響を受けて低調に推移していると言える。実質個人消費の過半を占めるサービス消費は、宿泊や外食を中心に回復傾向で推移してきたが、回復ペースは鈍化している。

足もとでは食料品をはじめとする財の価格上昇率が低下してきており、こうしたことを背景に、消費者マインドを表すと考えられる消費者態度指数は改善している。また、内閣府「消費動向調査」によると、物価は今後も上昇すると考えている消費者は9割を超えているが、消費者が予想する物価上昇率は低下傾向にある。このような消費者マインドの改善が、個人消費にプラスの影響をもたらすことが期待される。

他方、今後の個人消費の動向を考える上では懸念材料もある。サービスの価格上昇率はこれまでは財と比較すると低かったものの、足もとでは高まってきている。今後、人件費の上昇などを受けて、サービスの価格上昇率が拡大することになれば、サービス消費を抑制する動きが出てくる可能性がある。

また、実質個人消費が伸び悩む一方、物価上昇を背景に名目個人消費が増加傾向で推移してきたこともあって、家計貯蓄率は低下傾向にあり、2023年7~9月期には-0.2%となっている(図表2)。わずかではあるものの、所得を上回る消費が行われている状況である。家計貯蓄率はこれまでにもマイナスになったことがあり、コロナ禍で積み上がった貯蓄を今後取り崩すことがあるかもしれないが、物価上昇を背景に消費者の節約志向が窺える中、貯蓄を積極的に取り崩すとは考えにくい。今後は実質可処分所得が増加しなければ実質個人消費は伸び悩む可能性が高い。

政府は、所得税と個人住民税の定額減税の実施や給付金の支給によって家計の可処分所得を下支えする方針であるが、可処分所得の増加に向けては賃金の増加が不可欠である。今年の春闘では昨年の水準を上回る賃上げを目指す動きが広がっており、業績が好調な大企業の中にはそれを実現できる企業もあるだろう。そうした賃上げの動きが、価格転嫁を十分に行うことができていない中小企業も含めてどの程度広がるかが今後の個人消費の動向の鍵を握ることになりそうである。

図表1 家計の可処分所得と消費

家計の可処分所得と消費

図表2 家計貯蓄率

家計貯蓄率

執筆者

facebook x In

テーマ・タグから見つける

テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。