このところ、注文住宅の新設着工に弱さが見られる。国土交通省「住宅着工統計」によると、2023年(暦年)における注文住宅の新設着工戸数は22万4,352戸(前年比▲11.4%)と、1959年の20万4,280戸以来、実に64年ぶりの低水準となった(図表1)。注文住宅の新設着工は、高齢化や人口減少といった人口動態による構造的な需要の縮小を背景に長期的な減少トレンドにあるが、足元では一段と弱い動きとなっている。
原因のひとつが、注文住宅の取得費用の急増である(図表2)。労務費も含めた総合的な建築コストの動向を表す国土交通省「建設投資デフレーター」をもとに、注文住宅の大半を占める木造住宅の建築費用の動きを見ると、2021年半ば頃から急速に伸びが高まっており、直近2023年11月にはコロナ前(2019年11月)対比+15.1%も上昇している。また地価も伸びを高めており、国土交通省「不動産価格指数」によると、直近2023年11月における住宅地の取引価格はコロナ前(2019年11月)対比+12.9%の上昇となっている。これにより、注文住宅の取得費用(建築費と住宅地の取得費用の合計)は、直近2023年11月にはコロナ前(2019年11月)対比+14.4%も増加している計算となる。
これに対し、家計が住宅購入に利用できる資金は十分には増えていない。住宅取得の中心をなす30~40歳代の勤労所得は春闘での賃上げ復活を受けて増加しているものの、注文住宅の取得費用の増加ペースからは程遠く、総務省「家計調査」によると、2023年における世帯主が勤労者である二人以上世帯の可処分所得は、世帯主が35~39歳の世帯ではコロナ前(2019年平均)対比+4.3%、40~44歳の世帯では同+6.0%の増加にとどまっている。また、この間、日本銀行による政策修正の動きを反映して、固定型の住宅ローン金利が上昇に転じていることも、一部の家計の資金的な余力を低下させていると考えられる。
今後の見通しとしては、注文住宅の取得費用の増加が一巡しつつある現状を踏まえると、春闘での賃上げペースや住宅ローン金利の動向によるところが大きい。メインシナリオでは、春闘での大幅な賃上げ等を受けて家計の所得が順調に増加していく一方、日本銀行が緩和的な政策を維持することで住宅ローン金利の上昇は限定的なものにとどまり、家計の住宅取得能力が持ち直すことで、注文住宅の需要の弱さも次第に解消へ向かうと期待される。ただし、春闘での賃上げが一過性のもので終わるなど所得の増加が十分でなく、住宅ローン金利についても日本銀行による金融緩和の修正を受けて固定型を中心に一段と上昇するようだと、注文住宅の需要の低迷が長引くリスクも高まってこよう。
建てる住宅が「持家」と定義されており、これは一般には注文住宅に相当する
(出所)国土交通省「住宅着工統計」を基に当社作成
取得費を2022年度の基準額とし、国土交通省「建設投資デフレーター」と「不動産価格指数」を利用して、木造住宅の
建築費、住宅地価の月次の値を算出し、両者を合計することで注文住宅の取得費用とした
(出所)国土交通省「建設投資デフレーター」、「不動産価格指数」、住宅金融支援機構「2022年度 フラット35利用者調査」
を基に当社作成
テーマ・タグから見つける
テーマを選択いただくと、該当するタグが表示され、レポート・コラムを絞り込むことができます。