2024年5月、米国のバイデン大統領は対中関税を引き上げる方針を示した。関税引き上げの対象品目は、鉄鋼・アルミニウム製品など中国の過剰生産が目立つ分野や、半導体、電気自動車など中国の競争力が増している戦略的分野が中心で、天然黒鉛など中国への依存度が高い品目を除き、2024年8月1日に関税が引き上げられる。
中国にとっては、今回の米国の関税引き上げがもたらす影響は、短期的には限定的とみられる。米国は中国にとって最大の輸出相手国で、中国の輸出に占める米国向けの割合(対米依存度)は貿易摩擦を経ても高水準にあるが、関税引き上げ対象品目に限ると対米依存度は低い(図表1)。したがって、米国以外の仕向け先への輸出を増やすなどの対応が可能だろう。対象品目のうち輸出金額が最大の半導体輸出は、2023年に1,494億ドル(約22.5兆円)に上ったが、最大の輸出先は香港で43.4%を占める中、米国向けのシェアは2.0%に過ぎなかった。そのほかの品目も、概ね輸出全体の対米依存度(14.8%)を下回った。リチウムイオン電池や天然黒鉛、永久磁石は対米依存度が高いものの、いずれも関税引き上げ日が2026年1月1日と猶予期間が比較的長く、目先の影響は避けられる。
もっとも、中長期的には中国経済に大きな影響が及ぶと懸念される。欧米で対中保護主義の広がりがみられるためである。EUでは、すでに域外で生産された電気自動車に10%の関税が課されているが、足元で関税引き上げの検討が進む。また、米国でも対中関税が一段と引き上げられる懸念がある。特に、大統領選において、共和党・トランプ候補は公約として全ての中国製品に60%超の関税を課すことを掲げており、仮に同候補が当選すれば、対中関税の引き上げは確実である。中国は依然、米欧向け輸出のウエイトが高いことから、逆風は避けられない(図表2)。一方、中国は、今回の米国の関税引き上げ措置に対し、すでに日米など西側諸国から輸入する化学樹脂について不当廉売の疑いで調査を開始したほか、輸入車の関税引き上げなど報復措置を検討している。このように、今後、米中双方で報復の応酬が続けば、中国経済のみならず世界経済にもマイナスの影響が生じる恐れがある。
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