消費者マインドを表す代表的な指標の一つに、内閣府「消費動向調査」による消費者態度指数がある。2021年以降、消費者態度指数を構成する4つの意識指標の中で、特に「耐久消費財の買い時判断」の落ち込みが続いている(図表1)。2019年にも消費税率の引き上げ等を背景にその他3項目平均と乖離したが、その際は数か月以内に解消した。しかし、現在の乖離は3年以上も継続している。
この一因としては、物価上昇による買い控えが考えられる。耐久消費財は他の財よりも価格上昇が需要の抑制につながりやすいため、このところの物価上昇が耐久消費財の買い時判断に悪影響になっているとみられる。加えて、耐久消費財の買い替えサイクルが下降局面にあることも影響している可能性がある。エアコンや冷蔵庫、洗濯機等の白物家電を中心に耐久消費財の買い替え理由は故障によるものが多いため、消費者の耐久消費財の買い時判断は製品寿命による買い替えサイクルの影響を受けると考えられる。
そこで、「耐久消費財の買い時判断」を、携帯電話、PC等の中期循環成分と、乗用車や白物家電(例:エアコン、冷蔵庫、洗濯機)等の長期循環成分に分解し、買い替えサイクルによる影響を確認した。具体的には、周波数分析の手法の一つであるCF(Christiano-Fitzgerald)フィルターを用いて1990年1月から2024年11月までの「耐久消費財の買い時判断」の時系列データから各循環成分を抽出した。それぞれの循環成分の期間については、内閣府「消費動向調査」における耐久消費財の平均使用年数を参考に、中期循環成分は2~9年、長期循環成分は9~15年とした。なお、2年以下の短期循環成分はノイズ、15年以上の超長期循環成分はトレンドとみなし、図表からは除外している。
推計結果(図表2)を見ると、中期循環成分は2020年頃に一時的にマインドを押し上げたものの、2022年以降は押し下げに転じたことが分かる。コロナ禍ではPC等の情報家電の需要が増えたが、これはテレワーク需要の高まりに加えて、買い替えサイクルが上向いたことも寄与した可能性がある。次に、長期循環成分は、2019年以降マイナスに寄与しており、乗用車や白物家電の買い替えサイクルの弱さが消費マインドを押し下げたことが分かる。ただし、2021年頃をボトムに、マイナス幅は縮小に向かっており、2024年後半には小幅ながらプラスに転じている。こうした中で、経済産業省「鉱工業出荷指数」によると、乗用車と白物家電の出荷はどちらも持ち直している。2025年以降は、中期循環成分が引き続き押し下げに寄与する可能性はあるものの、より消費者マインドへの影響が大きい長期循環成分が上昇局面に入ることで、耐久消費財の買い時判断と他3項目の乖離が解消へ向かう可能性がある。
参考文献
- 東将人、河田皓史 (2017) 「周波数分析からみた近年の耐久財消費の動向」、日本銀行『BOJ Reports & Research Papers』
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