働き方改革と女性活躍

2023/01/13 矢島 洋子

女性活躍を含むダイバーシティ推進のためには、全社員の働き方改革が必須である。だが、この働き方改革も誤解の多い取り組みであり、効果的に進められている企業は少ない。

女性活躍に必要な働き方改革

女性が出産・子育て等のライフイベントに直面しても、就業を継続しワーク・ライフ・バランスを取りながら、積極的なキャリア形成をはかるためには、女性が自らの時間制約を含むニーズに応じて、休業や短時間勤務、テレワークなどの柔軟な働き方を選択することができ、かつ、育成につながる仕事の機会や働き方の選択が不利にならない公正な評価を受けられることが必要である。

しかし、未だ日本の多くの職場では、女性たちは、柔軟な働き方を選択することはできても、積極的な仕事の機会や公正な評価を得られているとはいえず、そのために、前向きなキャリア形成をはかるモチベーションが削がれている。

こうした状況を招いている主な原因は、日本企業の働き方が、相変わらずハードであり、長く働くことが評価されていることにある。逆に言えば、すべての社員が長時間労働ではなく、時間当たり生産性を高めるためにテレワーク等の柔軟な働き方を活用している職場では、特別なポジティブ・アクションを取らなくても女性が活躍しやすい。また、多くの企業で男性の働き方が変われば、男性が家庭内の家事・育児分担を担いやすくなり、女性の負担が軽減され、そのことによっても、職場における女性の活躍の可能性が広がる。

間違いだらけの働き方改革

だが、残念ながら多くの企業で働き方改革はうまくいっていない。原因の1つは、働き方改革が単なる「残業削減策」と理解されていることにある。テレビCMやドラマでも、「働き方改革」は「仕事が減らないのに退社を強要されるもの」「頑張ることを否定するもの」として揶揄される。頑張ることを否定するのではなく、「長時間働く=頑張っている」とみなすことを否定するのが本来の働き方改革だ。

「ノー残業デー」や「休暇の計画取得」の目標を個々の社員に課し、目標をクリアできない社員を問い詰める方法で行われてきた残業削減策が、働き方改革のイメージダウンにつながった。確かに初期の段階では、「ノー残業デー」や「休暇の計画取得」には効果が表れる。忙しい職場と言っても、1年中まったく帰れない、休めないという職場はそう多くない。だが、帰ることができても帰らない、休まない社員がいる。そうした社員に一定の早帰り、休暇取得を促す効果がノー残業デーや休暇の計画取得にはある。だが、実際に自分ひとりでは調整しきれない仕事があって、帰れない、休めない状況にまで、これらの取り組みを持ち込み、照明やパソコンの強制シャットダウンでごり押しをしても、対象日以外の残業が増えたり、これらの取り組みが形骸化するばかりだ。

従ってこれらの取り組みは、早い段階で「個人への動機付け」から「組織内での連携・協力」を促すものに変化させる必要がある。スケジュールの共有、カバー体制の構築、緊急時対応の検討などにより、協力して、早く帰ること、安心して休むことのできる職場環境をつくると同時に、業務削減やテレワーク活用などによる効率化、仕事の質の向上をはかることが重要だ。

「ノー残業デー」からこうした取り組みへの発展を促す鍵は、働き方改革のターゲットに管理職を含めることにある。管理職は、働き方改革関連法に基づく、時間外労働の罰則付き上限規制の対象外であることから、働き方改革も、管理職を対象とせずに進めている企業が多い。管理職は、部下を早く退社させ、まわらない仕事は自分が引き受けてなんとかしようとしてしまう。そうなると、根本的な業務の進め方の見直しや業務削減などの効率化が行われないままとなる。職場のひっ迫感は募るばかりで、働き方改革が憎まれ役となる。

管理職も働き方改革の対象とすることで、自身を含めた組織全体の業務の見直しの必然性を高めることが必要である。管理職がハードワークなままでは、働き方改革が進まないだけでなく、女性や若者がますます管理職を目指せなくなる。

期待される人事制度改革

働き方改革を個人から職場の組織単位の取り組みに引き上げたら、次に大切なのは、人事制度である。時間当たり生産性の高さを評価に組み入れることと、昇格における年功管理を見直すことがポイントだ。異動・転勤を含め、キャリア形成に社員の希望を取り入れ、社員が多様な働き方を選択し、自律的なキャリア形成をはかることが可能な人事制度改革が期待される。

こうした取り組みに発展せず、「ノー残業デー」などの初期の対応に終始して、なんとか法的には問題のない水準に労働時間を納めた段階で、「働き方改革ができた」と考えている経営者がいるとしたら大きな間違いだ。ましてや、現場の生産性が上がったからといって、配置人数を減らしたり、組織目標を上げることは、単なる生産性向上運動であって、働き方改革ではない。現場の生産性が向上し、生まれた時間の一部は社員に返す必要がある。その時間を、育児や介護、自己啓発、趣味や余暇など、何に使うかは社員が選択できるようにする。それこそが、多様性を生かす経営、社員のための働き方改革なのである。

(月刊金融ジャーナル「LESSON 女性活躍の今」2022年12月号より転載)

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