女性が活躍する企業とは
日本における「女性活躍の今」を見てきたが、将来的に「ジェンダー・ギャップが解消された企業」の姿とは、どのようなものだろうか。今の各社の取り組みは、そうした将来を見据えて進められているのだろうか。
自社を変える取り組みの必要性
これまでの連載で、日本企業が、女性の就業継続支援から活躍支援へと舵を切る上での課題と対応施策について紹介してきた。女性活躍推進法施行直後は、短期的なポジティブ・アクションにより女性社員を積極登用・育成する取り組みが多くの企業で行われた。しかし、近年ようやく、女性社員を変えるよりも、人事制度や働き方、ビジネスモデルなど自社の既存の在り方を変える必要に気づき、取り組みを始める企業が増えつつある。
当初、「会社側が積極的に登用を行ったり、キャリア採用をすれば女性管理職は増やせる」という経営層の誤解に基づき、政府の掲げる「2020年までに30%」という方針に従った高い目標を掲げる企業もあった。しかし、そうした企業の中からも積極登用策のみでは、管理職を大幅に増やすことは困難であることに気づき、いったん目標を下げるなどして、中長期的に女性管理職へのパイプラインをつくるための環境整備に取り組む企業も出てきた。実際、女性活躍推進法施行前後の日本企業(従業員10人以上)の女性管理職比率の平均は、2015年の11.9%から2021年の12.3%へと、1%未満の増加に留まっている。では、女性活躍推進法に意味はなかったのかといえば、そうではない。女性の活躍を促す、具体的には女性管理職を増やす、という目標を掲げたことで、自社で女性管理職が増えない原因に向き合う企業が増えてきたことは、まぎれもない女性活躍推進法の効果であろう。
女性活躍からダイバーシティ経営へ
結果として、女性のみをターゲットにするのではなく、女性を含む多様な人材が活躍できる人事制度の見直しに着手したり、働き方やキャリア形成の多様化に注力する企業も出てきた。男性の育休取得や仕事と介護の両立を後押しすることで、管理職を含む全社員の働き方を変えようとする企業もある。女性の健康問題への気づきから、健康経営、ウェルビーイング経営を標榜する企業もある。テレワークの推進を契機に、より効率的で生産性の高い働き方の実現に力を入れる企業もある。
こうした、一見、女性活躍推進という目標から離れたかに見える取り組みも、女性の育成や積極登用のみに拘泥している企業に比べれば、時間はかかっても、中長期的に、高い水準で女性の活躍を促すことや女性管理職を増やすことに寄与する可能性がある。
目指す姿を見据えながら進む
大事なのは、女性活躍推進法で求められている、採用、就業継続、女性管理職、労働時間に関する指標を、しっかりとフォローし続けることであろう。働き方や人事制度改革などの取り組みが、自社におけるこれらの指標をどのように動かしていくのか、その影響を見定めながら進むことが重要だ。取り組みが、当初の目標である女性活躍を含む多様な人材が活躍できる環境整備から外れた方向に進んでしまうこともあり得る。例えば、効率的な働き方の追求が、単なる生産性向上運動になって、社員のWLBや多様なキャリア形成に資するものとして還元されていないといったケースである。
また、2022年の女性活躍推進法の改正で公表が求められるようになった、「男女の賃金の差異」という指標も押さえておくことが大事だ。男女の賃金の差異からは、先の4指標では汲み取れない課題が読み取れる。大きなものは、職域や評価における男女差である。一般職・総合職といった雇用管理区分や、同じ管理職でも管轄する組織の規模の差、短時間勤務など柔軟な働き方を選択している割合などの男女差が浮き彫りになる。また賞与や残業代を含めた賃金の差異からは、職域や働き方の差が、評価にどの程度影響してるのかも見えてくる。
金融業界の女性管理職比率平均も未だ13%に留まり、男女の賃金の差異をみるまでもなく、採用や就業継続、管理職比率などの差のみで、課題把握は十分だと思われがちだ。だが、中長期的にどのような状態を目指して進むのかを考える上では、賃金の差異を指標とすることが大切だ。金融業では、雇用管理区分の残る企業も多いが、管理区分の見直しを進める上でも、現在生じている男女の賃金の差異の原因と、これまで雇用管理区分を必要としていた理由などを丁寧に分析することが重要になる。
個人向け・法人向け営業の男女比という問題のみならず、転居を含む異動の在り方や、採用規模と採用の母集団の考え方、キャリアの複線化の進め方、テレワークなど柔軟な働き方と配属との関係性など、自社の将来の姿を見据えた検討が必要だ。人材の有効な活用を考えた場合、あらかじめ仕事の範囲や昇進の可能性に制約を設けるような区分を設定することは得策ではない。しかし、先に挙げたような様々な視点を考慮すれば、管理区分の一本化だけが答えではない可能性もあるだろう。
現状の課題解決型のアプローチは、従業員アンケートなど現場のニーズに基づき、人事部主体で推進できることも多いが、目指す理想から逆算するアプローチには、女性活躍を含むダイバーシティ経営への経営層の理解と主体的な検討が不可欠だ。目指す姿もそこに至る道のりも多様なのだ。
(月刊金融ジャーナル「LESSON 女性活躍の今」2023年3月号より転載)
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