企業人事部門アンケート 「ジョブ型雇用の実態調査」の 結果概要

2021/11/16 三城 圭太、駒田 友紀
組織・人事戦略
独自調査
ジョブ型

1. はじめに

(1)アンケートの実施

日本企業において、メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用への移行を検討する機運が高まっている。当社では、ジョブ型雇用に関する各企業の課題意識や人材マネジメントの運用実態等を明らかにするため、企業人事担当者を主な対象に「ジョブ型雇用の実態調査」を実施した。

具体的には、2021年8月に当社が開催したWEBセミナー『「自社流」ジョブ型人材マネジメントの考え方~メンバーシップ型からのソフトランディング~』の参加申込者を対象に、セミナーの事後アンケートを兼ねて調査を行った。そのため本調査は、「もともとジョブ型雇用に関心が高い企業」を中心とした回答結果である点に留意いただきたい。

今後、ジョブ型雇用の人事関連施策や職務等級人事制度の導入を検討する際、本調査結果が一つの参考になれば幸いである。

(2)アンケートの実施概要

2021年8月4日~8月31日の間、WEB調査形式でアンケートを実施し、128名(116社)に回答いただいた。

【図表1】「ジョブ型雇用の実態調査」アンケート概要

項目 内容
名称 ジョブ型雇用の実態調査
目的 ジョブ型雇用に関する各企業の課題意識や人材マネジメントの運用実態等を明らかにするため
※8月4日当社開催WEBセミナーのアンケートを兼ねて実施
調査時期 2021年8月4日~2021年8月31日
調査方法 当社開催WEBセミナー『「自社流」ジョブ型人材マネジメントの考え方~メンバーシップ型からのソフトランディング~』参加申込者(各社人事労務部門中心)に対するWEB調査形式のアンケート
回答者 128名(116社)
業種別回答者 製造業49名(38.3%)、非製造業79名(61.7%)
設問数 28問(WEBセミナーに関する設問を含む)

2. 主な調査結果

(1)「ジョブ型雇用」に関心を持ったきっかけ

「ジョブ型雇用」に関心を持ったきっかけを尋ねたところ、「多様な働き方や人材の確保を促進したい」との回答が最も多く、半数を占めた。

回答数が多い他の項目からも、メンバーシップ型雇用に基づく処遇や人材確保の難しさ(職務と報酬のミスマッチ、高度専門人材の離職等)を感じているため、ジョブ型雇用に関心を持った企業が多いことが伺える。

【図表2】「ジョブ型雇用」に関心を持ったきっかけ

グラフ 「ジョブ型雇用」に関心を持ったきっかけ

(出所)当社作成

業種別でみると、製造業では「職務価値と報酬が見合っていない社員がいる」が51.0%、「中長期的な人件費管理の必要性を感じている」が49.0%であった(図表3)。特に製造業では、労務費の適正配分に向けた施策として「ジョブ型雇用」に関心が高まっていると推察される。

【図表3】業種別「ジョブ型雇用」に関心を持ったきっかけ

グラフ 業種別「ジョブ型雇用」に関心を持ったきっかけ

(出所)当社作成

(2)職務等級人事制度の導入・検討状況

自社における職務等級人事制度の導入状況(未導入の場合は導入に向けた検討状況)を尋ねた(図表4)。上述の通り、本調査の回答者はジョブ型雇用に関心が高いことが前提となるが、38.3%が一部または全部に職務等級人事制度を既に導入済であった(他の等級制度との組み合わせのケースも含まれる)。また、職務等級人事制度導入に向けたプロジェクトが稼働中・発足予定である割合は13.3%、情報収集のみの割合は14.1%であった。

また、29.7%が自社への職務等級人事制度の導入は検討していないと回答した。

【図表4】自社における職務等級人事制度導入・検討状況

グラフ 自社における職務等級人事制度導入・検討状況

(出所)当社作成

(3)職務等級人事制度導入にあたっての工夫

既に自社の一部または全部に職務等級人事制度を導入済、または自社で職務等級人事制度導入に向けた具体的な検討を進めている(プロジェクトが稼働中・発足予定である)との回答者に対し、より自社に合う制度とするために工夫している点・工夫する予定である点を尋ねた(図表5)。最も多いのが「自社の事業・職種・職務にマッチした職務評価基準の設定」で57.6%に上った。「社員の人事評価における能力評価維持」は34.8%、「職務等級ごとに上下限額を設定した範囲給の採用」は28.8%だった。

【図表5】職務等級人事制度導入にあたっての工夫

グラフ 自社における職務等級人事制度導入・検討状況

(出所)当社作成

また図表6の通り、回答母集団を「自社で職務等級人事制度導入に向けた具体的な検討を進めている」との回答者に絞ると、「自社の事業、職種、職務にマッチした職務評価基準の設定」や「標準職務記述書の作成による負担減」、「職務記述書に含まれる項目の簡素化」に工夫が必要であるとの回答割合が高くなった。 一方、「既に自社の一部または全部に職務等級人事制度を導入済」との回答者に絞ると、30%超が「社員の人事評価における能力評価の維持」や「職務等級ごとに上下限額を設定した範囲給の採用」を選択している。いずれも「検討を進めている」としたケースよりも高い割合であり、ここから職務等級人事制度を導入する際は評価・報酬制度を工夫することが求められると考察できる。

職務等級人事制度を新規に導入する企業では、職務記述書作成や職務評価実施の難しさに着目しがちだが、人事評価の運用や報酬設計についても工夫が必要になるため、導入検討開始時点から視野に入れておきたい。

【図表6】導入状況別職務等級人事制度導入にあたっての工夫

グラフ 自社における職務等級人事制度導入・検討状況

(出所)当社作成

(4)「ジョブ型雇用」に関連する施策の実施状況

図表7は、現在自社に職務等級人事制度を全く導入していないとの回答者(未導入)と、既に自社の一部または全部に職務等級人事制度を「導入済」であるとの回答者(導入済)に分け、10のジョブ型人材マネジメントの施策について、自社に該当するかどうか、「該当する」「一部該当する」「該当しない」の3択で確認した。

まず、「導入済」のうち20.4%が「職務記述書などによりポジションごとの職務内容・要件を文章化している」に「該当する」と回答した。他方、この文章化に「該当しない」と回答した割合も42.9%あり、職務等級人事制度の導入を標榜していても、ポジションごとの職務記述書は作成していないケースが一定数あることが分かった。

また、「同じ役職であっても、職務価値に応じて処遇が異なることがあり得る」や、「職務内容の変更を伴わない役職・資格等のランクアップを行っていない」、「職務に紐づかない属人要素による昇進制約がない」は、「導入済」のほうが「該当する」と回答した割合が高く、かつ「該当しない」と回答した割合が低かった。役職者の処遇や昇進・昇格の運用方法においては、両者間で差が生じていると考えられる。

一方で、「新卒採用において配属先をあらかじめ定めた採用をしている」や、「本人の事前同意に基づかない異動はない」「新卒・中途入社の区別なく、研修機会が十分にある」については、両者間で傾向に顕著な差は見られなかった。

この結果から、既に自社の一部または全部に職務等級人事制度を導入済である企業においても、ジョブ型雇用を実現するための採用・人材育成・配置等の施策の見直しは十分に検討されていないケースが多いと推察する。

【図表7】「ジョブ型雇用」に関連する人材マネジメント施策の実施状況

グラフ 「ジョブ型雇用」に関連する人材マネジメント施策の実施状況

(出所)当社作成

3.おわりに

メンバーシップ型の企業がジョブ型雇用への転換を検討する理由はさまざまであるが、本調査では、ジョブ型雇用に関心を持ったきっかけとして、「多様な働き方や人材の確保を促進したい」という回答が最も目立った。また、製造業と非製造業では傾向差があり、製造業では「中長期的な人件費管理の必要性を感じている」という回答が非製造業と比較して約20ポイント上回った(図表3)。

従前からジョブ型雇用に関心が高い企業が母集団である本アンケートでは、職務等級人事制度を「導入済」という回答は全体の4割弱であり、「導入を検討中」という回答も含めると全体の5割を超える結果となった(図表4)。また、職務等級人事制度の導入にあたっては、「自社の事業、職種、職務にマッチした職務評価基準の設定」に関心が集まっており、自社流にカスタマイズした仕組みを検討したいという意向が読み取れる(図表5)。

日本経済の成長鈍化、労働生産性の低下、人材獲得競争の激化など、日本企業が直面する環境変化の中で、今後ジョブ型雇用への関心はますます高まると考えられる。ジョブ型の人材マネジメントにより企業の人的課題を解決するには、メリハリのある報酬制度や職務記述書を導入するだけでなく、採用・人材育成・配置等の施策を有機的に実施する必要がある。必要な施策が多岐にわたれば改革推進の難度は増すが、それを実現するためには、目的を明確にしたうえで中長期的な改革のロードマップを策定し、計画的に施策に取り組む姿勢が求められる。

ジョブ型雇用の検討に際して「何から着手すればよいかわからない」「施策導入を進めるべきか迷いがある」という企業は、本アンケートの結果を施策立案や企画推進に活用いただければ幸いである。

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ジョブ型雇用の組み入れに際して議論の出発点として活用いただけるよう、ジョブ型人材マネジメントや職務等級人事制度の導入に関するエッセンスを解説しています。
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