現地ムスリムに対する訪日旅行に関する意向調査~安心してムスリムが飲食や礼拝が出来る環境の整備と正しい情報提供、受入側のムスリムに対する理解醸成が観光戦略のカギ~
2014/04/24 内田 克哉
独自調査
観光
三菱UFJフィナンシャル・グループの総合シンクタンクである三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(本社:東京都港区 社長:藤井秀延)は、近年の経済成長に伴い訪日旅行者が増加傾向にある東南アジアのインドネシアとマレーシアにおいて、特に宗教上の理由から日本への旅行に対して多くの不安要素を抱くムスリム(イスラームを信仰する人々)を対象に、「インドネシア、マレーシアにおける現地ムスリムに対する訪日旅行に関する意向調査」をインターネットアンケートにより実施し、回答を得た220サンプル(各国110サンプル、訪日経験有無の比率を1:1に設定)の結果を分析しました。
【調査結果の概要】
- 『日本へ旅行するにあたり、不安に思うこと、行きたくないと思う要因』について、「不安・不満を感じる」、「行きたくない要因となる」を合わせた、いわゆるネガティブ要素に着目すると、「飲食」に関するものが特に割合が高く、また「礼拝」に関する事項や「緊急時・疾病時の連絡先の情報」等も比較的高い値を示し、訪日経験のないムスリムほど、その傾向がより顕著に表れている。
- 『日本へ旅行する場合に重視すること』について、重要度の高いものは「飲食」に関する事項であり、ノンポークフード等、特別食の提供や原材料表記、ハラール認証を受けた飲食店の情報や食材の使用、アルコールが含まれていないことがわかる等が高い値を示し、礼拝に関する事項よりも上位に位置づけられている。特に、訪日経験のないムスリムについては、その傾向がより強い。礼拝に関する項目の中では、日本での礼拝時間がわかる事や、駅や空港で礼拝が出来る事も比較的重要度が高い。一方、重要度が比較的低いものは、インドネシアでは、施設のオーナーがムスリムであること、ムスリムの従業員が雇用されていること、マレーシアでは、母国語が話せるスタッフがいること等である。
- 『観光地への訪問意向』については、インドネシアでは訪日経験の有無にかかわらず、「富士山」が最も高い値を占めており、東京、大阪、東京ディズニーリゾート、北海道が高い値を占めている。マレーシアも同等の傾向が見られるが、インドネシアに比べ、ユニバーサルスタジオジャパンの人気が高い傾向にある。
- 『日本に旅行するとした場合、どのようなこと・ものに興味があるか』について、インドネシア、マレーシアの訪日歴有無にかかわらず「桜・紅葉等の鑑賞」、「雪を見る、触れる」、「日本の自然・風景」への興味が非常に高く、特に、訪日経験がないムスリムは、その傾向が顕著である。また、訪日経験の有るインドネシアのムスリムは、「ショッピング」が最も高い値を示し、またマレーシアでは、「テーマパーク・遊園地・水族館」が上位に位置づけられている。また、温泉も、いずれも10位以内に位置づけており、ニーズが高いことがわかる。一方で、「日本食を食べる」も興味が示されているものの、刺身、カニ等の個々の海産物の値は、比較的低い状況にある。
- 『日本およびその他アジアの国・地域(非イスラム圏)において、優れていると思われるもの』について、日本が優れていると評価されたものは、「気軽に雪が見られる」、「魅力的な観光地が多い」、「旅行者に対するおもてなしが優れている」、「現地ならではの食事に興味がある」であり、一方、評価の比較的低いものは、「ハラールレストランが充実している」、「言葉が通じやすい」、「旅行費用が安い」等である。
- 本結果を踏まえると、日本が今後、ムスリム旅行者を受け入れていくにあたり、以下の2つのポイントが重要となると考えられる。一つは、『正しい情報提供』である。すなわち、ハラール対応した飲食店の情報や、比較的安心して食べられる海産物を使った料理を解説とともに示す、あるいはそれらを食べられる施設の情報提供をすることにより、日本における食に対する不安を払拭し、食を楽しんでもらえる環境づくりへの対応が重要となる。もう一つのポイントは、『受入側の柔軟な対応』であり、まずはムスリムがどのような事で不安を抱いているかを把握し、まずは可能な範囲での対応や改善を行う事により、受入環境の底上げを図ることが必要である。例えば礼拝に関して言えば、臨時的に礼拝用のスペースを提供する等、少しの配慮・工夫により対応が可能となる事も多く、それらを実施していく事が、ムスリムが抱く不安の解消に繋がるものと考えられる。
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