がん治療と仕事の両立に関する調査

2016/03/04 野田 鈴子
仕事と治療の両立

近年、がん患者の生存率上昇や入院期間の短縮傾向から、がん治療を継続しながら働くことへのニーズが高まっている。国の政策としても、2012年に閣議決定された「第二期がん対策推進基本計画」において、働く世代へのがん対策の充実が重点課題として位置づけられている。しかしながら、社会の理解は十分とはいえず、がん治療と仕事の両立に関しては多くの課題が存在している。
こうした状況をふまえ、三菱UFJリサーチ&コンサルティングでは、がんに罹患した就業者における治療と仕事の両立の実態や、両立支援制度の利用状況、職場での相談状況、また就業継続のために職場に求められる取組などを明らかにすることを目的として、2015年8月にアンケート調査を実施した。調査の対象者は、がん罹患時に正社員として働いており、現在も何らかの形で就業を継続している男女978名である。本レポートは、その調査結果の概要をまとめたものである。また、社員のがん治療と仕事の両立を支援している企業に対して、2015年10月にヒアリング調査を実施し、企業における取組事例についても本レポートで紹介している。調査結果の詳細については、今後公開予定の調査報告書を参照いただきたい。

■調査結果の概要

  • がん罹患時の年齢は、男性では40~50代、女性では40代以下が中心となっている。また男性では、課長以上の管理職層が45.1%を占めている。
  • がん罹患後に転職・再就職した人は14.0%であり、退職した理由としては「体力面から継続して就労することが困難であったため」「治療と仕事を両立するために活用できる制度が勤務先に整っていなかったため」などが多く挙げられている。一方、罹患時と同じ勤務先で働いている人が、継続できた理由として多く挙げたのは「職場の上司/同僚の理解・協力があったため」であり、上司や同僚の理解・協力が就業継続につながっている。
  • がん治療と仕事の両立のために活用できる制度は、規模の大きな企業ほど整備されているが、利用率には大きな差はみられない。利用した制度などで上位に挙がっていたのは、「有給休暇」「半日・時間単位の休暇制度」「遅刻・早抜けなどの柔軟な対応」などである。
  • 罹患時の勤務先でがんについて報告・相談した相手については、「所属長・上司」の割合がもっとも高く、約8割の人が相談している。
  • 治療をしながら働く上で困難であったこととしては、「再発に対する不安が大きい」「治療・経過観察・通院目的の休暇・休業が取りづらい」「働き方を変えたり休職することで収入が減少する」などが多く挙げられている。また、必要な勤務先からの支援としては、「出社・退社時刻を自分の都合で変えられる仕組み」「がん治療に関する費用の助成」など、経済的な支援とともに、治療の状況に応じた柔軟な勤務を求める声が多い。

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