iDeCoをはじめとした私的な資産形成をどう進めるか?~高齢期の所得保障政策の今後に向けた実態分析~

2018/01/12 小林 庸平、横山 重宏、大野 泰資
金融
独自調査

サマリー

問題意識と分析概要

本稿では20~59歳の現役世代2,000人に対するアンケート調査の結果を用いて、高齢期に向けた資産形成の現状と課題を明ら
かにし、今後の方向性を検討するための分析を行った。

分析結果

退職後の生活や資金面に関する不安の原因

  • 退職後の生活について、「退職後の生活にはいくらかかるか心配である」(35.6%)(図表 1)、「できる限り早く退職後の生活資金の準備をすべきだ」(27.2%)と考える現役世代が多い。資金面での不安の背景としては、「自分自身・配偶者の医療費・介護費が多くかかること」(55.6%)「公的年金の毎月の受給額が減少すること」(46.0%)(図表 2)が大きい。

退職後に向けた資産形成の現状

  • 今後の公的年金の給付の見通しに対して、現役世代の半数以上は「想定よりも少ない」(56%)と回答している(図表 3)。
  • 過去1年間における資産形成額は「0円(資産形成をしていない)」(31.1%)が3割を超え、「老後の生活のため」の資産形成額に限定すると45.6%が「0円」となっており、現役世代の4割以上で「老後のため」の資産形成ができていない(図表 8)。
  • 老後の生活資金として増やす必要があると考える資産形成額は、現在の生活水準をあまり落とさずに増やすことが可能な資産形成額よりもかなり大きい。現在の生活水準を落とすことの難しさから、老後の生活のために必要な資産形成が実現に至っていないことが窺われる(図表 9、図表 10)。
  • 公的年金や金融に関する知識については、「理解している」割合は総じて低い(図表 13、図表 14)。また、投資や金融についての勉強経験について「いずれもしたことがない」(61.9%)が大半を占める(図表 15)。現役世代の多くにとって、公的年金や金融が知識面から身近になっていない、遠い存在であることが改めて認識される。

私的年金の加入状況およびその決定要因

  • 企業年金、及び個人年金・iDeCo(個人型確定拠出年金)といった私的年金加入の決定要因を実証分析したところ(図表 22)、世代や学歴、世帯類型等の影響を除去(コントロール)したとしても、所得の影響が非常に大きい。所得が低いほど私的年金に未加入になりやすい傾向がはっきりと表れている。
  • また、知識や幼少期の経験等も私的年金の加入に大きな影響を与えている。金融の理解度が高いと加入率は上昇するが、老後の必要資金が分からない人の場合は加入率が10%以上低くなる。子ども時代に夏休みの宿題を早めに終えていた人や、幼少期に親や保護者が金銭的に苦労していた人は、私的年金への未加入率が低くなっている。

高齢社会の望ましいあり方に関する国民の意識

  • 退職後に向けた資産形成について主に運用すべきと考える者としては「個人(本人)」(67.2%)が3分の2以上を占める(図表 30)。
  • 高齢社会、退職準備等への考え方について、「政府は、現在の現役世代の退職に備えるために十分な努力をしているか」との設問に対して、現役世代の6割以上が「そう思わない」(61.4%)と考えている(図表 31)。
  • 高齢社会に対する政策についての考えを確認したところ、現役世代の多くが、政府に対しては、税や保険料を増やすことによる対応よりも個々人への資産形成に関するサポートを望み、企業に対しては、企業年金を通じた資産形成へのサポートや高齢になっても働ける環境や条件の整備を強く求めている(図表 32)。

今後の高齢期の所得保障政策に向けた示唆

  • 退職後の生活に対して不安を抱く人は多いが、漠然とした不安や、退職後に必要となる資金を明確にイメージできていないことがそれらの主たる原因となっている。また、現役世代の知識不足が退職後に向けた私的な備えを妨げている。私的年金加入を促進していくためには、年金制度や金融に対する理解度を高めていくことが重要である。
  • その一方で、所得の高い世帯ほど私的年金への加入率が高く、iDeCoへの関心も高いが、高所得世帯ほど年金や金融に対する知識を豊富に有している割合も高いため、個人の自発性に依拠した自助的な資産形成の促進策は、退職後資産形成に関する格差をかえって拡大させてしまう可能性がある。今後は、自助促進策に対してこれまでとは異なるアプローチが求められる可能性が高い。
  • 日本では、高齢化を乗り越えるための望ましい政策として、税や社会保険料の負担を高めるよりも、現役世代の私的な備えの促進や高齢者の就労を促していくことに対する支持が強い。今後、公的年金の給付水準の低下が見込まれているが、私的な資産形成や高齢者就労を組み合わせながら高齢化を乗り越えていくことが、国民の意識にも適う政策の方向性であると考えられる。

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