年金を政争の具にしないためには何が必要か?イギリス年金委員会の取組みから考える「脱政治化」の視点~高齢期の所得保障を考えるシリーズⅥ~

2019/09/12 小林 庸平
医療福祉政策
高齢者
英国

イギリスにおける年金大改革

●イギリスの年金制度は、過去20年近くの間に大きな変革を遂げてきた。主要な項目は以下の通りである。
・第一に、所得比例給付の国家第二年金が基礎年金に統合され、定額給付の「新国家年金」が創設された。
・第二に、年金の支給開始年齢が引き上げられており、今後の引き上げペースも加速化が図られている。
・第三に、国家雇用貯蓄信託(NEST:National Employment Savings Trust)と呼ばれる企業年金制度が導入された。NESTは企業年金のないすべての企業に対して企業年金の導入を義務付けるものであり、NESTへの加入を希望しない被用者は自らの意思で脱退(オプトアウト)可能だが、特に希望を示さない場合は自動加入となる新しい私的年金制度である。

イギリスの年金改革における年金委員会の役割

●こうした年金改革で大きな役割を担ったのが2002年に設置された年金委員会(Pensions Commission)である。
●年金委員会はイギリスの年金制度を取り巻く状況を評価するとともに、年金改革の方向性を示すことを目的として設置された機関であり、高い独立性が担保された。
●年金委員会は、高齢期所得を取り巻く社会経済的状況を包括的に分析したうえで、改革の方向性を提示した。あわせて熟議(deliberation)に基づく国民の合意形成を行っており、現在まで続くイギリスの年金改革の基礎を構築した。

日本への示唆

●こうしたイギリスの年金委員会の取組みから、日本における年金論議の進め方について以下の示唆が得られる。
・第一は、独立性の高い機関を設置することによって、年金問題を脱政治化(depoliticising)したことである。
・第二は、診断フェーズと処方フェーズを分離したことである。診断フェーズではファクトやエビデンスのみを淡々と示すことによって、議論を喚起しながらも年金問題の脱政治化を行った。
・第三は、時間をかけた丁寧な合意形成である。客観的な事実を共有したうえで、熟議(deliberation)の方法を用いて今後の方向性に関する国民のコンセンサスを形成していった。その結果、政権交代等があったとしてもひとつの方向に向かって長期的な改革を行うことが可能となった。
・第四は、年金委員会の提言が国民の高齢期の所得保障に関する包括的なものとなっていた点である。年金委員会の提言は、公的年金改革だけではなく、私的年金や就労まで目配りしたものとなっており、公共サービスの供給側である行政目線だけでなく、需要側である国民目線からの議論になっていた。・・・(続きは全文紹介をご覧ください。)

「高齢期の所得保障を考えるシリーズ」Ⅰ~Ⅴは以下で公表しているため、あわせて参照ください。
高齢期の所得保障を考えるシリーズⅠ:https://www.murc.jp/library/column/sn_190708/
高齢期の所得保障を考えるシリーズⅡ:https://www.murc.jp/library/column/sn_190710/
高齢期の所得保障を考えるシリーズⅢ:https://www.murc.jp/library/column/sn_190726/
高齢期の所得保障を考えるシリーズⅣ:https://www.murc.jp/library/column/sn_190802/
高齢期の所得保障を考えるシリーズⅤ:https://www.murc.jp/library/column/sn_190806/

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