【要旨】
「諸外国の継続的専門能力開発(CPD)から見る」シリーズの第3弾では、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、エストニアの北欧4ヶ国のCPD(Continuous Professional Development)政策に着目する。本稿ではCPD政策を取り巻く教員養成政策について概括したのち、4ヶ国のCPD政策について、近年の動向とそれに対する現場(教員や組合等)及び研究者の見方を調査し、各国のCPDの特徴の描出を試みた。
まずフィンランドについては、教員の専門性に対する社会的信頼が厚く、それゆえCPDにおける教員の自律性が確立している。1990年代以降の地方分権化の流れの中で国の介入を避ける傾向にあり、法定化されている現職研修の日数が少ないとの指摘もされている。
ノルウェーでは、各地域及び学校のニーズに対応したCPDを行うことを目指して、自治体や学校への権限委譲が進行している。研究者においても個々の教育実践に関連した一貫性のある教師教育が重視されており、CPDを教員の日々の実践に組み込む重要性が高まっているといえる。
デンマークは現職研修の受講が法定化されていないことが特徴の1つであるが、一方で、成人教育の枠組みで教員のCPDの支援体制が整えられており、教員側の意識としても学び直しの重要性が根付いている。
最後にエストニアについては、学校単位で教員の評価体系が定められているため、各教員の教育実践と評価、それらを踏まえて行われる専門能力開発が接続している点に特徴がみられた。
なお4ヶ国に共通的な点としては、入職前の段階で修士号取得を前提とする高いレベルの教員養成が行われていること、国レベルの教職基準が明確に確立されておらず、地方自治体や学校の権限が大きいことが挙げられるが、教員の社会的信頼や魅力度、労働環境についてはばらつきがあるようである。
上記の調査結果を踏まえて、日本が抱えるCPDに関する課題に対する示唆を以下2点導いた。
1点目として、各国で発展経路は異なるものの、北欧ではCPDの地方分権化が進んでいる。このことが地域間の資源の差や研修機会の単発性等の課題を引き起こしている一方で、教員養成機関や教職員組合等の関係機関が専門能力開発に関わり、発展させている様子が見られた。日本においても、平成27年中央教育審議会答申等で、教育委員会と大学等との連携・協議の重要性が強調されており、地域と関係機関が協働する仕組みが整備されているといえるが、運用面では課題がある様子がみられる。北欧諸国においても、実際に関係機関との協働や支援が実態としてどの程度成り立っているのかは、今後更なる調査研究が必要である。
2点目として、北欧では、学校ベースで行われるCPDを推進する流れが見られる。これにより、日々の教育実践の中に専門能力開発が組み込まれ、教員が専門能力開発に参加する意義を見出しやすくなると考えられる。加えて、北欧では個々の学校内で行われる専門能力開発活動だけではなく、複数の学校間で教員個人の知見を共有する動きが見られる。こうした取組は、各教員の知見を個々の学校内に留めるのではなく、勤務先以外の学校も含めた複数の学校で共有するシステムだといえる。中堅職員の不足や多忙化の中で学校内での協働型CPDに問題が生じている日本でも、同様の課題意識をもつ近隣の学校に知見を共有することで、学校ベースの協働型CPDをより発展することができるのではないだろうか。
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