ナッジを用いた固定資産税の口座振替勧奨と要因分解~横浜市戸塚区・港南区・金沢区におけるフィールド実証~

2022/06/30 小林 庸平、西畑 壮哉、石川 貴之
ナッジ・行動科学
税制
自治体

はじめに

現在、横浜市では固定資産税の納付にあたって、納付書(金融機関及びコンビニエンスストア)、口座振替、クレジットカード等から納付方法を選択することができる。いずれの納付方法を選択しても納期内納付されている限りは問題ないが、納付されない場合、納税者には延滞金支払いのコストが発生し、行政としても督促状の発送や滞納整理等にかかるコストが発生することになる。

督促状の発送後速やかに納付されるケースも多いことから、納付書の紛失や納期限の失念等によって納付されないケースが一定数あると推察されるため、一つの手段として、これらの納税者に口座振替納付を選択するよう促すことで、納期内納付率が高まり、上述のコストの削減につながることが期待される1。また、口座振替納付にすることで、納税者が繰り返し納付する手間や時間を削減することもできる。

そこで本稿では、横浜市戸塚区、港南区及び金沢区の固定資産税新規納税者(2021年度の対象者はそれぞれ2,896、2,708、2,017人)に対して、今後の政策改善への示唆を得ることを目的として、行動科学の知見(ナッジ)を活用した口座振替納付の勧奨によって、どの程度口座振替の申込率が高まるかをランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)を用い定量的に検証した。戸塚区では2020年度にも、選択の自由を保ちつつ、個人がより望ましい行動を選択できるように働きかける「ナッジ」を活用した口座振替勧奨を実施しており、ナッジによって口座振替申込率が8.8%ポイント(2倍以上に)上昇することが示されている2。本稿は、対象を3区に広げ、1)2020年度の実証事業の結果が再現されるか追検証を行うこと、2)どの要素が効果的であったのか効果を切り分けること、3)2020年度には実施しなかったナッジを活用した封筒の効果を測定することを意図したものである。

本稿の構成は以下のとおりである。次節では、口座振替勧奨の因果関係を特定するための実証デザインを紹介し、具体的な勧奨内容について整理する。第3節では、口座振替の申込データを用いて、行動科学の知見を活用した口座振替勧奨の効果を分析する。第4節では、分析結果の含意と今後の課題を整理する。

(続きは全文紹介をご覧ください)


1 あらかじめ定められた日に自動引き落としされる口座振替で固定資産税を納付する場合、納期内納付率はほぼ100%である。

2 詳細は、参考文献[1]小林ほか(2021)を参照されたい。

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