「新しい資本主義」実現に向けて財源をいかに確保するか~必要となる歳出見直しと環境関連税の増税の検討~

2022/07/11 中田 一良
調査レポート
国内マクロ経済
  • 岸田内閣は、2022年6月に「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」と「経済財政運営と改革の基本方針2022」(骨太の方針2022)を決定した。これらによると、「新しい資本主義」の実現に向けて、人への投資と分配、脱炭素、デジタル化、スタートアップへの投資などを推進するとしている。また、日本をとりまく安全保障環境の変化を踏まえ、防衛力を抜本的に強化するとしており、今後はこれらの分野で歳出が増加する可能性が高い。
  • 政府が今後、注力する分野のうち防衛関係費と子育て支援をはじめとする家族向け支出の動向をみると、いずれも増加傾向にある。しかしながら、それらのGDP比はOECD加盟国の中では必ずしも高いわけではない。もっとも、これは、日本の一般政府の歳出総額のGDP比がOECD加盟国の中で高くないこととも関係していると考えられる。
  • 日本の一般政府の歳入のGDP比は上昇が続いているものの、OECD加盟国の中では必ずしも高くなく、歳出、歳入の規模はOECD加盟国の中では大きくない。他方、歳出のGDP比が高い欧州の国は歳入のGDP比も高く、財源を確保するために税収や社会保険料の負担が大きくなっていると言える。
  • 政府が今後、注力する政策に関して、現時点では必要な財源の規模は明らかではないが、「骨太の方針2022」では、こども政策の実施に関しては安定的な財源の確保について検討するとされている。また、「GX経済移行債(仮称)」についても将来の財源の裏付けをもつものとされており、これらについては財源の確保が必要となろう。財政状況が厳しい中、防衛力の強化をはじめ他の政策の実施に必要な財源をすべて国債発行に依存するのではなく、何らかの形で財源を確保する必要があると考えられる。
  • 財源確保に向けてはまず歳出の見直しがあげられる。しかしながら、過去のケースを考慮すると必ずしも大きな効果をあげられるとは限らない。その場合には、環境関連税の増税が選択肢の一つとなる。環境関連税の増税により脱炭素に向けた取り組みの加速が期待されるうえに、増収分は脱炭素に向けた取り組みを支援するための財源となりうる。現在は原油価格が高騰しており、環境関連税の増税は難しいものの、ガソリンなどの小売価格が落ち着いてくれば、増税を検討する余地が出てくるだろう。「骨太の方針2022」の記述からは財政健全化への取組が後退したとみることもできる中、政府が安定的な財源を確保できるのか、注目される。

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