今月のグラフ(2022年2月) 米国のインフレをもたらした要因と今後の見通し

2022/02/04 細尾 忠生
今月のグラフ
海外マクロ経済

米国の金融引き締めに向けた動きが世界的に金融市場の動揺を招いているが、米国が金融引き締めを急ぐ背景にはインフレの高まりがある。米国の消費者物価上昇率は2021年12月に前年比7.0%を記録した。1990年の湾岸危機、2008年の原油価格高騰時などを上回り、第二次石油危機以来およそ40年ぶりの歴史的なインフレとなった(図1)。

インフレをもたらした要因をみるために、2021年12月の寄与度をみると、家賃と、持ち家の帰属家賃(持ち家に家賃を支払ったとみなす統計上の概念)の合計で1.4%ポイント、新車、中古車などの自動車が1.8%ポイント、米国人の生活に不可欠なガソリンが1.9%ポイント、それぞれインフレ率を押し上げた。また、その他の広範な財・サービスの合計で2.0%ポイントの押し上げ要因となった(図2)。

一方、インフレが加速した2021年4月の直前月である3月の寄与度をみると、当時は、家賃関連で0.6%ポイント、自動車が0.4%ポイント、ガソリンが0.9%ポイント、その他の財・サービスが0.8%ポイントそれぞれ物価を押し上げていた(図2)。

両者の時期を比較すると、物価の押し上げに最も寄与したのは自動車である。自動車は、経済活動の再開を追い風に需要が急増したが、部品不足の影響により供給が追い付かず極端な在庫不足に陥り新車、中古車ともに価格が高騰した。特に、中古車の平均価格は2020年4月の126万ドルから2022年1月に238万ドルと2倍近くに上昇した。また、自動車に次いで物価上昇に寄与したその他の財・サービスについては、グローバルな供給不足の影響で高騰した物流費の価格転嫁や、物流停滞によるモノ不足が価格を押し上げたことに加え、人手不足にともなう賃金上昇も広範な財・サービス価格を押し上げた。さらに、家賃については、住宅バブル崩壊の反動で長年にわたり住宅の着工、販売、在庫が低水準にあったところへ、コロナ禍を契機に郊外の一戸建て需要が高まったため、供給不足から住宅価格が高騰、それにともない家賃が上昇した。ガソリンについては、原油に連動して価格上昇が続いている。

このように、米国のインフレは、家賃、自動車価格、ガソリン価格、賃金それぞれの上昇と物流停滞という5つの要因が複合的に重なってもたらされている。今後について、まず、家賃に影響する住宅価格をみると、上昇率は高水準ながら頭打ち傾向がみられる。また、自動車については生産が回復し始め、中古車についても一本調子の価格上昇に歯止めがかかりつつある。ガソリン価格については注意が必要だが、ウクライナ危機が回避され、米国やOPECの生産が緩やかに増加する中、需要期である冬を超えるとピークアウトする可能性もあろう。その他の財、サービス価格を押し上げてきた物流混乱についても、企業アンケートなどによると、ようやく緩和の兆しがあらわれてきた。一方、注意を要するのは賃金動向である。まだしばらく上昇が続き価格転嫁の動きが広がる懸念が残る。5つのインフレ要因をみると、今がピークのものが多いが、賃金動向次第では、インフレ率が思ったほどには下がらないリスクが残ることには注意が必要である。

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