経営の本質~意思を持って自社を変えるには~

2024/12/05 山田 喜宣
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革新的なテクノロジーの出現により、新たな製品サービスやビジネスモデルが次々と創出されるなど、企業を取り巻く環境は日々変化しています。同様に、企業の経営手法においても経済誌や経営書などで新しいキーワードが続々と紹介されています。
こうした中で筆者が経営コンサルタントとして感じるのは「新しいキーワードもさることながら、企業経営における普遍的な考え方を認識し実践することの重要性」です。「普遍的な考え」は、経営の本質と言い換えてもよいでしょう。その中でも特に重要な考え方が、「意思を持って、自社を変える経営」です。
これは、ただ日々の業務を頑張るだけではなく「自社をこういう形にしたい」「自社をこのように変えたい」という意思を持ち、それを計画化し、推進する経営スタイルを指します。
一見すると、当然のように思えるかもしれません。しかし、筆者の経験上、特に成長の踊り場にいる中堅企業や中小企業では、日々の業務に追われ、こうした基本的な取り組みができていないケースが少なくありません。本稿では、そうした企業の経営層に向けて、「意思を持って自社を変える経営」の考え方や留意点を大局的に解説します。

成長する競合との比較で見えてくる「意思」

皆さんの業界で、「10年前は自社と同程度だったのに、今ではすっかり差をつけられてしまった競合」と聞いて、思い浮かぶ企業はありませんか。同じような外部環境でありながら、なぜ成長に差が生じるのか。その理由の一つに「意思を持った経営」の有無が挙げられます。残念ながら、ただ日々頑張るだけでは大きな成長は望めません。競合もまた日々努力をしています。経営に限らずスポーツでも同じですが、「現状を打破し、異なる何かを目指す」という明確な意思を持ち、実行しなければ、やがて停滞に陥ることになります。

意思を持って考えるべき三つの視点

「意思を持って自社を変える経営」の実現のために考えるべき視点は、以下の三つです。
(1)どこに根を張るか
自社の事業を顧客軸や商品軸などで分類し、「どこに根を張るか」、つまり注力すべき領域を明確にします。多くの企業は複数の事業領域を持っていますが、何をどの程度伸ばすか、一方で縮小させるかを判断することが重要です。既存の事業領域に成長の余地がなければ、新たな顧客層や商品領域の開拓を考えます。
(2)どう伸ばすか
根を張る場所が決まったら、次に考えるべきは「伸ばし方」です。
まずは競合優位性を築く具体的なポイントを検討し、それを磨き切るための業務体制(人材、組織、業務方法、各種ルール、システム)を考えます。競合優位性は必ずしも革新的なものである必要はありません。例えば、迅速な納期回答といった小さなことであっても、顧客に訴求できることはあります。訴求ポイントを探る際は、これまで当該顧客と接していない人材が「経営企画」などの立場で、顧客に満足度調査を行う形式でヒアリングするとよいでしょう。さらに、ヒアリング結果を「顧客が重視する程度」と「自社に対する満足度」の二つの軸で整理すると、訴求の優先順位設定において効果的です。訴求ポイントが定まれば、それを実行に移せる業務体制のイメージもつきやすくなります。
また、これまでの事業運営でネックとなっている課題の解消も進めましょう。多くの企業には「重要だと認識していながら手を付けられていない課題」を抱えています。「一度は認識したけれど蓋をしてしまい、そのうち忘れてしまった」、あるいは「精神論でカバーすることにしてしまった」といったケースです。これらを放置していることで、大きな機会損失を生じている中堅企業や中小企業は少なくありません。実際、これらの課題は業務体制(人材、組織など)に起因し、企業の成長のボトルネックとなっていることがあるため、必要に応じて投資を含む解消策を講じるべきです。
(3)どう支えるか
上記の(1)(2)は、いわば事業活動そのものに当たります。一方で企業には事業活動を支えるさまざまな仕組みがあります。人事制度や業績管理の仕組みはその代表例です。社員が高いモチベーションを維持しながら効率的に業務に注力できる社内環境を整えることが求められます。

考える際の留意点

上述した(1)どこに根を張るかを考えるにあたり、目標を定量的に設定することが欠かせません。注力事業をどの程度まで伸ばすのか、それによって(2)の「どう伸ばすか」(何を、どの程度)が変わってくるからです。さらに「現在の経営努力を続けた場合に、将来的に対象事業の業績がどうなるか」を予測し、目標を設定することが重要です。
例えば現在1億円の売り上げがある企業について考えてみましょう。現在の経営努力を続けると3年後に1.2億円まで伸長することが予想される場合、1.3億円の目標を設定してもプラス0.1億円の保守的な目標になります。(2)の内容も「ほどほど」でよく、もっと頑張ろうで済むかもしれません。一方で、3年後に0.8億円に落ち込むのであればプラス0.5億円が必要になり、(2)「何を、どの程度伸ばすか」もそれ相応のことを考えなければなりません。現在を基準に目標設定をする企業が目立ちますが、これでは効果的な検討になりません。先々の予測をベースに目標を設定し、それに応じた施策を検討するよう留意が必要です。

本稿では「意思を持って、自社を変える経営」について、その考え方や留意点を解説しました。これまで述べてきたことを、「成長の踊り場を感じている」という中堅中小企業の経営者との議論から紹介すると、「どうやって今の売上を維持もしくは積み上げるか、に終始していた」「結果として、こうした発想を充分に持てずにいた」という声をよく耳にします。ぜひ、この「意思を持つ経営」に着手し、10年後に「かつては自社と同じ程度だったあの企業が、気付けばはるか先を進んでいる」と競合企業に思われる存在を目指していきましょう。

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執筆者

  • 山田 喜宣

    コンサルティング事業本部

    経営戦略ビジネスユニット 経営戦略第1部

    シニアマネージャー

    山田 喜宣

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