自動車リサイクルにおける再生資源の循環促進に向けて(3)~家電リサイクルにおける樹脂の循環型サプライチェーン構築からの示唆(3/3)~
前回のコラムでは、自動車リサイクルにおける再生資源の循環促進の参考となる他製品の事例として、パナソニック株式会社(以下、パナソニック)の樹脂リサイクルにおける取り組みを、特に技術的な側面から紹介しました。本コラムでは、引き続きパナソニックの同取り組みについて、事業者間連携の側面に焦点をあてて紹介していきます。
回収した樹脂の品質に応じた技術・拠点のコーディネート
使用済製品から回収できる樹脂の形状や品質はさまざまであるため、用途に適した解体・破砕・選別や再生樹脂[ 1 ]の製造が必要です。こうした一連の設備等を個社で整備することは、設備投資等のコストの観点から容易ではありません。パナソニックETソリューションズ株式会社(以下、PETS)は、家電から回収できる樹脂の性状と再生樹脂の用途に応じて、採用する技術や処理・生産を行う連携先のコーディネートを行い、この問題を解決しています。
同社は全国の家電リサイクル工場で回収した樹脂(単一樹脂及びミックス樹脂)を、必要な技術を有する国内外の「再生樹脂会社[ 2 ]」に配分しています。この際、パナソニックの関係会社のみではなく、資本関係を超えて、さまざまな技術や人員を擁する事業者と連携することによって、幅広い品質の樹脂を処理できるようにしています。PETSは、こうした連携先を疑似的な工場群(「グローバルバーチャル工場群」)と見立て、その管理・運用を通じて、再生樹脂の生産量増加と(全て自社工場で賄う場合と比べた)コスト削減を実現しています。
連携先の再生樹脂会社とは、原料等の取引だけでなく、技術向上の観点でも協力を進めています。その際には、パナソニックの「加東樹脂循環工場」が重要な役割を担っています。同工場は、このスキームにおける一種の「マザー工場[ 3 ]」として位置づけられており、コスト・品質を両立可能な再生樹脂コンパウンド技術の開発等を行っています。ここで開発・蓄積されたノウハウが、連携先の再生樹脂会社等に共有され、一層、高品質で安定した樹脂再生を可能としています。
2段階の再資源化プロセスの採用による原料の品質保証
パナソニックが構築したスキームのもう一つの特長は、再資源化プロセスを2段階に分け、目標とする品質・量の樹脂を回収するために、各段階における事業者の役割を明確にしている点です。
再資源化プロセスには、使用済製品等の回収、破砕、選別(再生樹脂コンパウンド原料の回収)、再生樹脂の製造等の工程があります。一般的に、再資源化には高品質な樹脂の回収が求められますが、品質を重視しすぎれば、処理できる使用済製品や回収できる樹脂の量が少なくなり、採算性が低くなる傾向にあります。他方、必要な品質水準を達成できなければ、再生樹脂を購入してもらえません。これらを両立する設備を導入できることが理想ですが、それだけ大きな投資規模や人員配置が必要となります。
そこで、PETSは、廃家電を解体して樹脂の回収・選別を行う事業者を「一次リサイクラー」、回収された樹脂を精緻に選別し、コンパウンドの原料品質まで高める事業者を「二次リサイクラー」として区別し、それぞれの役割を整理しています。「一次リサイクラー」は、家電リサイクル工場が該当し、製品を解体して各種素材に選別する役割を担います。「二次リサイクラー」は、樹脂の選別やコンパウンドを専業で行う事業者が多く、投入した使用済製品や選別の程度によって品質がさまざまな樹脂を選別し、さらに高品質な再生樹脂コンパウンド原料に加工する役割を担います。こうした分業体制の構築によって、高度な再資源化技術を有していても、必ずしも規模が大きくない事業者との連携も可能にしています。
こうした体制を構築する際には、品質に関する改ざん等が生じないよう、相互の信頼関係構築が必須となります。PETSは多くの事業者と対話し、十分な技術やコンプライアンス意識を有する事業者との連携を進めてきました。こうした信頼を基盤とするサプライチェーンの構築によって、再生樹脂の品質担保(品質検査結果の開示等)が可能となり、需要家に対する訴求力の向上につながったと考えられます。
樹脂に関する循環型サプライチェーンを構築するための工夫
ここまで3回にわたり、パナソニックの循環型サプライチェーンの特長を分析してきました。パナソニックの循環型サプライチェーンの成功要因は、大きく4つあると考えられます。
1つ目は、選別技術の高度化・組み合わせ最適化です。樹脂の回収量増加に向けて、新規の選別技術を開発すること、こうした新規技術と既存技術を組み合わせたプロセスを構築することで、目的とする樹脂を高品位で回収しています。
2つ目は、製品設計部門と再生樹脂工場の連携による再生樹脂や設計技術の開発です。使用済製品を原料とする再生樹脂は、不純物等の影響によって性能や外見上の問題が生じてしまう場合がありますが、社内の設計部門とリサイクル部門が連携することで、新品製造等に利用可能な再生樹脂の開発や基準の改訂を行い、再生樹脂の利用先を拡大しています。
3つ目は、使用済製品から回収する樹脂を、目指す用途に応じて処理できる事業者との連携体制(バーチャル工場群)を構築したこと、そして連携体制内での原料・製品の最適分配を実現したことです。さまざまな処理技術を有する国内外の再生樹脂会社(高度選別会社・コンパウンド会社など)と連携し、質や形状にバラつきの大きい使用済製品由来の樹脂を、効率的に再生できるようにしています。また、自社の加東樹脂循環工場が新規の再生樹脂コンパウンド技術等を開発し、連携先事業者とともに技術水準を高めたことも重要な取り組みでした。
4つ目は、2段階の再資源化プロセスの採用による樹脂回収量・品質の安定化です。家電リサイクル工場(一次リサイクラー)では、さまざまな使用済製品から樹脂を極力回収し、樹脂の高度選別会社(二次リサイクラー)では、回収された樹脂の選別精度向上と再生樹脂コンパウンド原料の品質向上を目指すことで、量・質と必要な技術の組み合わせを最適化しています。こうした分業体制を構築することで、比較的規模が小さな事業者も、循環型サプライチェーンに参加し、これらの事業者が保有する技術を最大限活かすことが可能となっています。
自動車リサイクルにおける再生資源の循環促進に向けた示唆
パナソニックの循環型サプライチェーンの構築における成功要因は、自動車リサイクルにも応用できる部分があると考えられます。このうち、技術的な要素は第2回のコラムで解説していますので、ここでは事業間連携に注目していきます。
パナソニックの事例では、さまざまな技術を有するリサイクラー(解体、破砕、選別、樹脂の高度選別)やコンパウンド会社と連携し、需要家の再生樹脂の要求仕様に応じて、投入する原料や処理方法を調整しています。また、加東樹脂循環工場によって、連携先事業者にとっても、技術力向上の機会を得ることができ、一層win-winの関係を築けています。
自動車リサイクル制度では、使用済自動車の再資源化等に関する法律(通称「自動車リサイクル法」)第31条においてコンソーシアムを対象とした全部再資源化[ 4 ]の認定を行っているほか、現在検討されている資源回収インセンティブ制度でも、解体業者、破砕業者、原材料メーカー等によるコンソーシアムの形成が注目されています。こうしたコンソーシアムの構築において、パナソニックの事例から得られる示唆は3点あると考えられます。1点目はコンソーシアムの運用主体がリーダーシップをもって、コンソーシアム内の全体最適化を図ること、2点目は各コンソーシアムに解体・破砕業者や原材料メーカーが1社ずつではなく複数社が参画することで、多様な品質・量に対応できる体制を構築すること、3点目はより効率的な循環を実現するため、相互に協力できる範囲(協調領域)のなかで新規技術等を共有していくことが挙げられます。特に、樹脂は多様な種類があり、また添加剤の種類等もさまざまであるため、それぞれ得意とする技術(破砕・選別技術、素材生産技術(マテリアルリサイクル、ケミカルリサイクル等))を活かしていくことが重要になると考えられます。
昨今、このような技術的な連携に加えて、特定の要件を満たす再生樹脂に対して第三者認証を与えることで、需要家の再生樹脂利用を拡大しようとする動きも見られます。PETSが加盟しているSustainable Plastics Initiative(SusPla)もその一例であり、トヨタやデンソーなどの自動車関連企業、積水化学工業や三井化学などの素材メーカーも参画して、品質・安全性・安定供給・環境に照らした管理体制基準を満たした工場・事業所向けの認証(SPC認証(仮)[ 5 ])の開発に取り組んでいます。SPC認証の普及により、需要家が安心かつ安定して使えるサステナブル・プラスチック市場の醸成が期待されています。
また、パナソニックの事業者間連携では、再資源化プロセスの構築方法にも工夫がありました。プロセスを2段階に分けて、製品を解体・選別する事業者と、樹脂を専門に精緻に選別する事業者が役割分担を行うことで、事業者間における設備投資コストを分散しながら、各社の得意とする事業領域を活かした仕組みを実現しています。自動車リサイクルでも、例えば、解体した部品や粗く選別した樹脂を、地理的に近しい範囲で集約し、これを需要家のニーズに応じて、精緻に選別していくといった仕組みを作ることが期待されます。自動車解体業や破砕業の事業者は、欧州のリサイクル事業者や国内の製造業と比較すると事業規模は小さい傾向にありますが、こうした分業体制を敷くことで、該当プロセスに特化した設備投資や人員配置が可能となり、効率的な設備投資のほか、人材が不足するような状況下であっても生産性の向上へとつなげやすくなります。その結果、厳しい市場環境に置かれていても、高度な樹脂等の循環に貢献していける可能性があります。
ここまで見てきた通り、再生資源の循環を促進できるような循環経済型のものづくりを進めていくためには、従来の原料調達とは異なる仕組みや、そこで求められる技術を実装する必要があります。パナソニックは、家電リサイクル制度という基盤を活かしながら、循環促進に向けた仕組みや技術を先駆的に構築してきたといえるでしょう。こうした先行事例も一つの参考事例として、自動車をはじめ、多様な製品における再生資源の循環が進んでいくことを期待します。
(以上で、家電において樹脂の循環型サプライチェーンを構築したパナソニックの事例をもとに、自動車リサイクルへの示唆を考察した全3回のコラムは終了となります。取材に応じていただきましたパナソニックホールディングス株式会社様、パナソニックETソリューションズ株式会社様、一般社団法人産業環境管理協会様に御礼申し上げます)。
[ 1 ]本コラムでは、特に「再生樹脂コンパウンド(使用済み製品等由来の樹脂に顔料や添加剤(フィラー、酸化防止剤等)を混ぜて機能性等を向上させたもの)」を指す。
[ 2 ]本コラムでは、「高度選別会社(樹脂を高度に選別する技術等を有する会社)」と「コンパウンド会社」のことを指す。(出所:パナソニック株式会社・パナソニックETソリューションズ株式会社「家電リサイクル樹脂の循環型サプライチェーンの構築」一般社団法人産業環境管理協会(令和3年度資源循環技術・システム表彰(第47回)資料))
[ 3 ]国内外の多くの生産拠点(「チャイルド工場」)を有する多国籍企業において、世界中の生産拠点を統括し、その手本となる様に、と名付けられた工場を意味する。新製品の技術開発、試作モデルの製作、知的財産権の管理、量産ノウハウの確立、従業員への技能訓練などさまざまな役割を包括する。(出所:大田・佐々木「多国籍中堅・中小ものづくり企業における新たなマザー工場戦略モデルに関する研究―Tier1、Tier2 企業の 5 角形モデル―」『筑波学院大学紀要』 第19集 3~4頁(2024年)(最終確認日:2024年9月10日))
[ 4 ]全部再資源化業者(解体業者・破砕業者)が高品質(低いCu含有量)の鉄スクラップを生産し、受け入れ基準に適合したスクラップを電炉・転炉業者が適切な価格で購入する仕組み。コンソーシアム代表者が、円滑な物流・金流構築の支援やコンソーシアム内の調整を担う。(出所)自動車破砕残さリサイクル促進チーム資料「全部再資源化の仕組みの概要」(https://www.asrrt.jp/recycling/consortium/pdf/temp01.pdf)(最終確認日:2024年9月20日)
[ 5 ]SPC(Sustainable Plastics Certification)認証制度:再生プラスチックに関するエンドユーザーの理解を促進し、再生プラスチック需要者の適正評価と使用量拡大につなげるため、需要者側が安心かつ安定して使える再生プラスチックのマテリアルリサイクルシステムを第三者が認証する制度。事業所単位もしくは工場単位で認証の取得が可能。(出所:一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)「Sustainable Plastics Initiative(SusPla)-品質向上・安定供給に資するマテリアルリサイクルによる再生プラスチック市場の拡大のために-」(https://suspla-initiative.net/wp-content/uploads/2024/08/%E2%96%A001_SusPla%E6%A6%82%E8%A6%81%E8%B3%87%E6%96%99_%E6%A6%82%E8%A6%81%E7%89%88v3.pdf)(最終確認日:2024年9月18日))
※(2024年11月11日訂正)コラム中に以下の通り誤りがありました。訂正してお詫び申し上げます。
・見出し1段落3、見出し3段落4
正:加東樹脂循環工場
誤:加東循環樹脂工場
・見出し4段落2
正:加東樹脂循環工場
誤:加東樹脂工場
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